【温度差】なぜちょっとした違いがときに幸せ、ときに断絶のタネになるの⁉️《異種ワンテーマ格闘コラム(吉田潮)vsマンガ(地獄カレー)》 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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【温度差】なぜちょっとした違いがときに幸せ、ときに断絶のタネになるの⁉️《異種ワンテーマ格闘コラム(吉田潮)vsマンガ(地獄カレー)》

【連載マンガvsコラム】期待しないでいいですか?Vol.7

◼︎ 妹・吉田潮は【温度差】をどうコラムに書いたのか⁉️

 

 家族だからといって、認識や反応が同じとは限らない。温度差は必ずある。

 たとえば、「料理した後、フライパンや鍋をすぐ洗うか否か」問題。私は食べ終えて一服した後で、皿と一緒にまとめて洗う派だ。油汚れが強いので、コップや皿を洗う時の洗剤の泡をついでにかけて落としつつ、最後にがっつり洗う。それが無駄とストレスのない方法だと思っている。

 ところが、夫は食べる前に大きな汚れ物を洗わないと気が済まない。焼きそばやらオムライスを作ってテーブルの上に置いた後、フライパンや鍋を洗うのである。「食べ終わってからでよくね?」と思うのだが、食べた後はのんびりしたいらしい。

 夫は夫で、1年に一度しか窓拭きをしない私に対して、思うところがあるに違いない。猫毛がタンブルウィード化してコロコロと床の上に転がっているのを見て、思うところがあるかもしれない。でも、「きれいにする」感覚の隔たりは大きな問題ではない。洗わなくても掃除しなくても死にやしないし、順番や頻度なんてどうでもいいからだ。些末な温度差は気にしない、受け流すに限る、と夫は言う。

 ただ、解せない「温度差」がひとつだけある。これは夫だけでなく、姉にも共通することなのだが、彼らは「買ったモノをすぐ開けない族」なのだ。

 私は欲しくて買ったモノは帰宅直後、あるいは届いた瞬間にバリバリ開けて見る。すぐ使う。向田邦子がエッセイの中で「スグミル種」(いただきモノをすぐに開けて見たい人)と命名していたが、まさに私はスグミル種。というか、いただきモノもいただいた瞬間に卑しくも開けちゃうし、食べ物ならなおさらのことすぐに食べる。自分で買ったモノでもすぐに使いたい。Amazonなら届いた直後に秒速で箱を開ける。そして不要な箱や袋はどんどんガバガバ捨てる。我が家に未開封の箱はない。

 ところが、夫も姉も自分で買ったモノだろうと、もらったモノであろうと、着手がめちゃくちゃ遅い。存在を忘れているかの如く放置する。私からすれば「どうかしてるぜ!」である。どれくらい遅いかというと、夫は自分で買ったTシャツやスニーカーをそのまま放置して、約1年たってから着たり履いたりする。姉は、「ミシンがほしい」というので送ってあげたのだが、ダンボールを開封しないまま数年たった。外箱は3匹の猫の爪とぎBOXと化し、ボロボロになっていた。そして一度も使わぬまま、我が家に戻ってきた。

 「今欲しくないなら買わなきゃいいのに」

 「すぐに使わなくても欲しかったから」

 「重要なのは今でしょ?」

 「別に今じゃなくてもいいでしょ?」

 最も温度差を痛感する事象である。買ったことで満足してしまうタイプのようだ。決して距離が縮まることのない隔たりは、案外歯がゆい。

 このふたり、もうひとつ共通点があって、スグミル種ではないものの、気に入ったモノは実に長く愛用するのだ。特に衣類。Tシャツなんか着倒してヨレヨレのボロボロになったモノほど好みだという。付喪神クラスまで愛用するし、物持ちがいいというか、ほぼ捨てない。捨てられない人々でもある。断捨離が得意で捨てまくラーな私からすれば、かなりの温度差。たぶん、人として、そして地球に優しいのは彼らのほうだろうけれど。

 これが他人ともなると、また違った化学反応が起きたりもする。温度差は時折断絶を生む。

 高校の時、同級生に尾崎豊ファンの女子がいた。尾崎ファンは、結構真面目な優等生タイプの子が多かったような気もする。空気を読んで、大人に従い、反抗も反発もしないからこそ、社会や大人へのレジスタンスを歌った尾崎が神のような存在に見えたのかもしれない。私はどこがいいのか理解できないと伝えたら、彼女はカンカンに怒った。いや、怒る意味がわからんよ。自分と違う感覚の人がいて当たり前なのに。当時私が好きだった岡村靖幸を、理解できないと言われたとしても怒る気にはならない。「まあ、そうだろうな」と思って終わる話なのに。

 さらに、岡村靖幸が好きだというと、今度はなぜかプリンスのファンからも怒られる。「和製プリンス」といううたい文句が、ご本家ファンからすれば納得がいかない・認めないという。なんでみんなそんなに怒るほど熱くなれるのか。それこそ温度差。もちろん、私のモノ言いが直球すぎたのかもしれないが。

 そういえば、別のクラスにはさだまさしの筋金入りのファンの女子もいたが、理解できない他人に対して怒ることもなかった。女子高生でさだまさしファンという激シブな好みを他人に理解させようという気もさらさらなかったようだ。成熟というか、達観していたなぁと思う(ごめん、陰で「まさし」って呼んでいたけれど)。

 どうにか断絶しないで、友好的に温度差を愛でることはできないだろうか。自分と違う意見をもつ人間に攻撃的な人もなぜか多い。はなから攻撃的で敵対心を抱く人には近づかないことだ。私も私で、食わず嫌いはよくないと思うようになった。何かに、あるいは誰かに熱中している人の話をちゃんと聞くように心がけてはいる。

 十数年前、行きつけの飲み屋で「ハリー・ポッターを1回も観たことがない(観る気がしない)」と話したら、バーテンで役者をやっている友人が1時間以上かけて、あらすじから結末まで魅力を滔々と話してくれた。原作まで読み込んだという。今となっては「ホグワーツっつう学校が舞台で、ヴォルデモート卿ってのが最強の敵」みたいなことしか思い出せないが、少なくともその1時間はハリー・ポッターの世界に浸ることができた。彼のお陰である。十数年たった今でも、実は観ていない。

 そうだ、温度差は縮めなくてもいい。友好的に有効活用すればいいのだ。数年前から親友がEXILEAKIRAにどハマりしている。AKIRAに興味はないが、彼女の熱中っぷりは興味深い。エネルギッシュにライブやコンサートをハシゴして、お金と時間を注ぎ込む。その情熱のせいか、華やいで若返ってきたような気もする。

 いつだったか、彼女が写真集発売記念の握手会(対面できる)に行く前に、私が練習台になったこともある。身長も同じくらいということで、私がAKIRA役となり、短い時間でどうやって愛を伝えるのか、何度もシミュレーションをした。温度差はあるけれど、明らかに私たちは熱を共有して、一体化した。中年女ふたりで何やってんだ、と思うかもしれないが、実に楽しかった。温度差を機に、心の距離を縮めることだってあるのだ。

 昨年、AKIRAがリン・チーリンと結婚したときも、彼女が心配でLINEしたところ、擬人化したインコが幽体離脱して「他界」と叫んでいるスタンプが3連続で送られてきた。「来るべき日を迎えて、ほっとしている」と達観した文言も送られてきた。 

 こうなると、ある意味、私もAKIRAファンといってもよいのではないか。共通の話題にアンテナを張るようになり、彼の動向を気にするようになったのだから。

 そういえば48年生きてきて、自分自身が何かに、あるいは誰かに熱中したことがあっただろうか。恋焦がれたり、お金と時間と魂を注ぎ込んだり、口角に泡ためてその魅力を演説できるほど、熱を上げたことがあるだろうか。テレビドラマや舞台を観るのは好きだけれど、年単位で継続して熱狂したことがない。一時期盛り上がるものの、すぐに冷めるし、跡形もなく忘れる。斜に構えているつもりは毛頭ないが、温度が上がりにくいことは確かだ。

 熱狂できる人には才能と根性があり、持続可能なエネルギー(体力と気力と財力)にあふれている。そして、満ち足りた豊かな時間を過ごしている。実に妬ましい。

 そう、私は嫉妬しているのだ。ひとつの何かに、誰かに、心血を注ぎこめる純粋さと力強さに。誰かのファンになること、何かについてのオタクになることが自分にはできていない。仕事以外で熱中できる何かを、死ぬまでに見つけたい。死ぬまでに、って書いている時点で志が低いけれど、今に見てろよ、と思わないでもない。

 (連載コラム&漫画「期待しないでいいですか」? 次回は来月中頃)

毎月14、15日頃連載コラムvsマンガ「期待しないでいいですか?」

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吉田 潮

よしだ うしお

コラムニスト

1972年生まれ。おひつじ座のB型。千葉県船橋市出身。ライター兼絵描き。



法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。『週刊フジテレビ批評』、『Live News it!』(ともにフジテレビ)のコメンテーターなどもたまに務める。2010年4月より『週刊新潮』にて「TVふうーん録」の連載開始。2016年9月より『東京新聞』放送芸能欄のコラム「風向計」を連載中。著書に『幸せな離婚』(生活文化出版)、『TV大人の視聴』(講談社)、『産まないことは「逃げ」ですか?』(KKベストセラーズ)、『くさらない イケメン図鑑』(河出書房新社)ほか多数。本書でも登場する姉は、イラストレーターの地獄カレー。



公式サイト『吉田潮.com』http://yoshida-ushio.com/



公式ツイッター吉田潮 (@yoshidaushio) | Твиттер - Twitter



 



 


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