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宗教とは何か? 20年の修行を積んだ禅僧が語る宗教と現世利益の関係

坐禅で「悟り」は開けない その一

現世利益だからこそのれ霊感商法

 昔から、「霊感商法」が市場としているような「宗教」にアプローチしてくる人の問題は、「貧」「病」「婚」だと言われていました。つまり、貧困や金銭トラブルの問題、病苦、それに結婚に代表されるような異性関係や、広く人間関係の縺れや葛藤です。

 近頃はこの3つに「老」が加わるかもしれません。老いが「貧」「病」「婚/困(人間関係の困難)」を招き寄せ、最終的に孤立に追い込んだとき、その苦しみは深刻でしょう。

 ここで一言しておかなければならないのは、「貧」「病」「婚」「老」などから発する需要は、強度は違っても、要するに「現世利益」だということです。「現世利益」だからこそ「商法」が可能なのです。

 しかし、実を言えば、これらは「宗教」の問題ではありません。
 だいたい、貧困は当人が稼げるかどうかにかかっていて、たとえば稼ぐ条件や環境を整備するのは政治や行政、企業の役目です。病気は治療と療養の問題です。人間関係のトラブルは、当事者が努力して改善する以外に解決の方法はありません。「老い」の苦悩が貧困や健康問題、人間関係にあるなら、当人や周辺の人々、さらに共同体が、それらを丁寧に取り除いていく手間をかけるしかないでしょう。

 むろん、古代からこのような問題を扱う「現世利益」的テクノロジーがありました。たとえば、土着信仰としての呪術です(古代には「政治」と「医術」がそうした信仰体系の内部に位置づけられていた)。

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南 直哉

みなみ じきさい











1958年、長野県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、大手百貨店勤務。1984年、曹洞宗で出家得度、同年、永平寺に入山。以後、約20年の修行生活を送る。

2003年に下山。現在、福井県霊泉寺住職、青森県恐山菩提寺院代。著書に『語る禅僧』(ちくま文庫)、『老師と少年』(新潮文庫)、『恐山―死者のいる場所』(新潮新書)、『善の根拠』(講談社現代新書)、『刺さる言葉―「恐山あれこれ日記」抄』他。


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