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【事実隠ぺいの代償】国益に反する厚労省のリスクコミュニケーション失敗《岩田健太郎教授・感染症から命を守る講義㉙》

命を守る講義㉘「新型コロナウイルスの真実」

 

◼︎あれは本当なのか。事実を隠蔽してないか

 そして、ダイヤモンド・プリンセスの情報を矮小化しようとして変な前例をつくっちゃったので、これからずっと「日本は本当のことを言ってるのか」って言われ続けるでしょうね。事実、これを書いている(2020年3月21日の)時点では日本の感染者数は欧米の多くの国より少ないままですが、「あれは本当なのか。事実を隠蔽していないか」という海外のジャーナリストの問い合わせがぼくのところにどんどんやって来ます。ぼくは日本政府が露骨な感染者隠しをしているとは考えていませんが、クルーズ船で「ちゃんとやっている」と言ってしまった以上、そういう疑われ方をするのは当然です。

 ぼくが船の中に入って、問題点を指摘していたら追い出されたこととも根底は一緒です。言うことを聞かないやつは出ていけ、とやったのは、要するに現実から目を背けて自分たちの物語に固執したかったわけですから。

 ぼくが外国のメディアとの記者会見で、「これが事実で、こういうことがあったんだ」と話したときにも、国内ではものすごい数の非難が来ました。「日本の悪いところをBBCとかCNNとかに言うなんてひどいやつだ」って匿名の手紙が来ましたけど、これは日本にとって都合の悪い事実を外に知らせるのが良くないという発想の仕方ですね。

 それって考え方が逆じゃないですか。日本にとって不都合なこと、日本が間違っていたことをちゃんとオープンにすることこそが、リスクコミュニケーションなんです。

 だから、あれは本来ぼくがやることじゃなくて、厚労省がやるべきことなんです。クルーズ船の対応ではこういうところで失敗しました、ということをちゃんとオープンにしていれば、日本はクルーズ船でしくじったかもしれないけど、あんな大変な状況だからやむを得ないよねって、ある程度の同情を得られたはずなんですよ。

 ところがぼくが「こことここはできてない」と話したのに対して、厚労省はそれでもなお「いやそんなことはない。ちゃんとできてますよ」って言っちゃったから、外国の人たちはみんな「ああ、日本政府は信用できないな」と思ったんです。

 そこが理解できない日本人も多くて、「岩田は外国人の記者クラブに英語であんなことを言っちゃって、国賊的な奴だ」って怒る人もいるわけだけど、逆なんですよ。中国は新型コロナで海外メディアへの情報開示を積極的にやっています(ただし、その内容がどこまで本当かはぼくには分かりません)。これは戦略です。国際社会での信用を得るには透明性と開示性が大事だと中国は知っているのです。だから、うまくいかなかったことはうまくいかなかったと認めることが、信頼性を高めるために本当は必要なことなんです。

 うまくいってないにもかかわらず「うまくいってます、大丈夫です、ちゃんとできてます」という大本営発表をする。本当は負けているのに「転進してます」とか「あれは想定内だったんです」みたいに言う東大話法を続けているから、もう信用してくれない。

 優しい日本のメディアならそれで許してくれますけど、外国のメディアは厳しいので許してくれない。先日もBBCの取材を受けたんですが、彼らは日本政府の言ってることを全然信用してないですよ。「日本政府はすぐに話をいい感じに持っていこうとする」と思われている。一回失った信用を元に戻すのは大変なんです。

 ダイヤモンド・プリンセスの感染対策は失敗した、というのが、世界的にほぼコンセンサスの取れた評価です。「あれはうまくいってたんじゃないの」と考えてる国は一つもない。そしてうまくいかなかったこともさることながら、それ以上に、日本政府が失敗を認めなかったことが世界の心象を害したんです。
「新型コロナウイルスの真実㉚へつづく)

 

 

 

 

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岩田 健太郎

いわた けんたろう

1971年、島根県生まれ。神戸大学大学院医学研究科・微生物感染症学講座感染治療学分野教授。神戸大学都市安全研究センター教授。NYで炭疽菌テロ、北京でSARS流行時の臨床を経験。日本では亀田総合病院(千葉県)で、感染症内科部長、同総合診療・感染症科部長を歴任。著書に『予防接種は「効く」のか?』『1秒もムダに生きない』(ともに光文社新書)、『「患者様」が医療を壊す』(新潮選書)、『主体性は数えられるか』(筑摩選書)など多数。


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