《失敗の本質》ゾーニングはリソースも必要なく理想論でもない! ただ感染経路の知識があればできること【岩田健太郎教授・感染症から命を守る講義㉓】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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《失敗の本質》ゾーニングはリソースも必要なく理想論でもない! ただ感染経路の知識があればできること【岩田健太郎教授・感染症から命を守る講義㉓】

命を守る講義㉓「新型コロナウイルスの真実」

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 さらに、ただでさえPCRの数が足りないといってるときに感染者が増えれば、(濃厚接触者も含めて)余計なPCRをたくさんやらないといけない。こんなの負の連鎖ですよね。

 リソースを有効活用したいからこそ、ゾーニングは完璧にすべきなんです。そうすればPCRの無駄遣いをしなくて済むし、ヒューマンリソースも無駄遣いしなくて済む。ゾーニングによって、資源を有効に使えるようになるわけです。

 この「資源を有効に使う」というのは、ぼくが一番気にしているところです。「無尽蔵にリソースを持ってこい」というのは素人のやることですから。
 今あるリソースを最大限活用する上でまず一番大事なことは、「人を失わない」ことです。10人いるんだったら、10人みんな元気でいることが大事なんです。

 だからこそ、感染対策のプロは「自分は絶対感染しない」という安全性が確認されて、初めて現場に入っていくんです。

 想像するに、それはプロのクライマーも一緒ですよね。何の装備も持たずに、さあ山に登れ!っていうのは素人のやることです。安全を確保する方法がちゃんと見えていて、それを実行して、初めて山に登るのがプロのクライマーですよ。
 そして我々感染対策のプロは、プロだからこそ、まずちゃんとゾーニングができてからじゃないと怖くて現場に入れない。

 ところがダイヤモンド・プリンセスではPPEを着ている人の横を、背広を着て、サージカルマスクして、携帯を手に持ってずかずか歩く人がああだこうだと議論をしていた。あんなに怖い光景はないですよ。

 ここまで何度も「手指が大事」と言ってきました。ということはレッドゾーン内で手に触るものは、全部汚いと見なさないといけない。

 だから携帯なんか持っていっちゃダメだし、それをポケットに入れるなんてのはナンセンスもいいところなんです。中でウイルスが付いたらどんどん感染してしまう。これは感染対策のイロハなんですが、みんな携帯を持って中に入ってるものだから、びっくりしてしまいました。

 もちろんぼくは現場に携帯を持っていかなかったし、だから内部の写真も自分では1枚も撮っていません。ぼくが船から追い出された後に、丁寧にも橋本岳厚労副大臣が写真を撮ってTwitterに投稿してくれたので、おかげさまで証拠保全ができて、ぼくは助かりましたけどね。

 ちなみに、あの写真には誤解が結構あるようなので、そこは正しておきましょう。医学用語では、微生物がいる状態を「不潔」、微生物がいない状態を「清潔」と呼びますから、その二つの名前でゾーンが分かれていること自体は、まったく正しいのです。

 橋本副大臣ご本人は、あれでちゃんとゾーニングできているという証明のつもりで写真を投稿したらしいのです。でも問題は、まさに橋本副大臣が立って写真を撮っているその位置が、「不潔」でも「清潔」でもないグレーゾーンになっちゃってたことなんです。感染症の専門家はみんな、あの写真ひとつで「ああ、これじゃ全然うまくいってないだろうな」と分かったでしょうね。

 彼自身が危ないところで写真を撮ってしまっていたから、ウイルスを触ってない保証がなくなってしまって、14日間隔離して自己監視しなきゃいけなくなっちゃったんですね。副大臣のような要職が職場を離れなければならない。まさにリソースの無駄遣いですね。
岩田健太郎

「新型コロナウイルスの真実㉔へつづく)

 

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岩田 健太郎

いわた けんたろう

1971年、島根県生まれ。神戸大学大学院医学研究科・微生物感染症学講座感染治療学分野教授。神戸大学都市安全研究センター教授。NYで炭疽菌テロ、北京でSARS流行時の臨床を経験。日本では亀田総合病院(千葉県)で、感染症内科部長、同総合診療・感染症科部長を歴任。著書に『予防接種は「効く」のか?』『1秒もムダに生きない』(ともに光文社新書)、『「患者様」が医療を壊す』(新潮選書)、『主体性は数えられるか』(筑摩選書)など多数。


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