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「オンライン授業が教育現場を救う」という文科省の幻想

第35回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

オンライン授業

■何のための「1人1台端末」なのか

 7月15日。首相官邸にて政府のIT新戦略(世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画)についての会合が開かれた。そこで、デジタル化を社会変革の原動力とする「デジタル強靭化」を推進するにあたっての柱のひとつにオンライン教育などの「学び改革」を位置づけるという方針が示され、17日に閣議決定された。

 教育のICT化をIT新戦略の柱に据えたのは、初めてのことである。新型コロナウイルス感染症(新型コロナ)の影響で長期休校が続いている中で注目されたのがオンライン授業で、学校再開後も導入への取り組みが積極的に進められている。
 多くの自治体が、公立の小中学校で「1人1台の端末」を、年度末までに実現するという方針を明らかにしている。その勢いを、政府として援護するというか、煽っているのが、17日の決定と言えそうだ。

 文部科学省(文科省)は「新型コロナによる休校で生じた学習の遅れを年度内に取り戻せ」と、学校現場に、直接的にも遠回しにも指示している。それを受けて学校現場では、無理矢理に授業時間を捻出して、遅れた分を取り戻そうと必死になっている。
 それに追いつこうと子どもたちも必死である。しかし、あまりに急ピッチで進められていく授業に付いていけず、学びへの興味を失ってしまっている生徒も少なくない。そして、そういう子がいることを承知しながらも、教員は授業のピッチを緩めることができない。国の方針があるからだ。子どもたちも教員も、いまやボロボロの状態となっている。

 その状態を改善するために、教育課程の縮小や丁寧な授業を実現するための少人数クラスの実現など、様々な要求が出されている。不足している教員数を増やしたり、予算確保を求める声も挙がっている。しかし、政府・文科省は、そういった声には耳を傾けようとしない。まるで、そんな声は耳に入っていないかのような素振りである。
 それにも関わらず、教育のオンライン化には驚くほどの積極性を示しているわけだ。まるで「オンラインだけが教育の危機を救う」と言わんばかりの勢いなのだが、果たして、そうなのだろうか。

 オンライン教育といえば、「GIGAスクール構想」がある。義務教育を受ける児童生徒のために、1人1台の学習者用PCと高速ネットワーク環境などを整備する計画で、2018年から2022年度までの計画となっている。
 5年間をかけて実現しようとしていた計画だったのだが、「笛吹けど踊らず」が新型コロナ前の状況だった。消極的な自治体や学校が多かったからだ。

 理由は、オンライン授業に懐疑的だからに他ならない。1人1台を実現したところで、オンライン授業を実施する技量が教員には不足しているし、子どもたちにしてもオンライン授業に馴染むだけの下地はないからだ。
 それが、新型コロナによって、一気に「オンライン授業ブーム」とでも呼べそうな状況へと急変してしまった。「オンライン授業」は、まるで流行語だ。

 しかし、言葉が反乱しているわりには、オンライン授業が実施されていないのが実態でもある。
 教育ニュースを配信している『ReseMom』の5月28日付号は、『朝日小学生新聞』や『朝日中高生新聞』を発行している朝日学生新聞社によるアンケート調査の結果を報じている。それによれば、休校中のオンライン利用として「メールやインターネットで課題の指示がある(オンデマンド授業を含む)」がもっとも多くて、回答者の5割を占めていたという。
 オンライン利用とはいえ、指示が伝達されたり、もしくは一方的に教員が喋るのが主な授業内容となっていたわけだ。

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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