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勘違いに注意! 死後の財産相続のために書くのは「遺書(いしょ)」ではない!

法律のプロが教える、相続と遺言の豆知識 第5回

経済的に余裕があるなら、
専門家におまかせがラク

 では、遺言作成を専門家に依頼する意味はどこにあるのでしょうか。単に財産Aは長男に、財産Bは次男にそれぞれ相続させる、という程度の内容であれば簡単に作成できそうです。しかし、分割方法の工夫によって相続税を安くしたい場合や、特定の相続人に財産を円滑に相続させる場合、あるいはファミリープランを考えて法人を設立する場合などは、専門家に依頼することが非常に重要です。不備によって後で無効になることを避けるためにも、円満な相続を実現するためにも、専門家の介在が必要となります。
 賃貸アパートを経営する依頼者の遺言を作成したときのことです。相続税を最小限に抑えつつ、賃貸アパートを3兄弟のうちの長男に単独で相続させたいという要望でした。特定の相続人に高額の財産を単独相続させる場合、他の相続人からの遺留分減殺請求が問題になります。各法定相続人には、法的に確保されている最低限の相続分(遺留分)を下回ると、不足する分を回復する権利があるのです。
 このケースでは、相続税が一番安くなる分割方法にすると、他の相続人からの遺留分減殺請求があった場合に、相続税で得する以上に長男が損をしてしまう状況が問題でした。ただし遺留分減殺請求は行使されない可能性もあります。あくまでも不満を感じた相続人が権力行使をして初めて、遺留分が問題となります。結果的に選んだ方法は、法人を設立し不動産を法人所有にする。法人の株式に権限の差を設けることで長男に配慮する、というものです。

 このような複雑な内容の遺言は文面作成そのものよりも、依頼者の意向を確認し、シミュレーションを何パターンも作成することに、時間がかかります。せっかく苦労して作成した遺言が無効になったり、多額の相続税を負担したりすることにならないためにも、専門家に依頼する必要がある場合も多いのです。
<『相続の抜け穴 遺言の落とし穴』(長谷川裕雅)より抜粋>

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長谷川 裕雅

はせがわ ひろまさ

東京永田町法律事務所代表。弁護士・税理士。早稲田大学政治経済学部を卒業後、朝日新聞社に入社。記者として多くの事件を取材する。その後、一念発起して弁護士へ転身。弁護士・税理士として争族と相続税をトータルに解決できる数少ない専門家として、相談者から絶大な信頼を集めている。主な著書に『磯野家の相続』(すばる舎)、『波平は「相続」であわてない! 磯野家に学ぶ33ヶ条』(文藝春秋)、『相続で泣きたくなければ不動産のしくみを知りなさい!』(PHP文庫)、『なぜ酔った女性を口説くのは「非常に危険」なのか?』(プレジデント社)などがある。


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  • 長谷川 裕雅
  • 2014.04.16