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教員が激務に耐えるのは文科省ではなく子どものため

第34回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

教師

■教職員のメンタルヘルスは限界

 『教育新聞』(7月1日・電子版)によれば、文科省が都道府県・政令市の教育委員会に教職員のメンタルヘルス対策に関する通知を出した。その理由を同記事は、「新型コロナウイルス感染症対策をしながらの学校再開が進む中、教職員の心身への過度な負担が懸念される」からだとしている。また、通知は次のようにも指摘しているという。
「教職員は勤務環境や業務内容が通常時とは異なる中で職務に従事しており、そのことが精神的な緊張や心身の過度の負担につながる」

 教職員が通常時とは異なる状況下で職務に従事しているのは、現実である。
 登校してくる子ども一人ひとりの検温結果をチェックし、忘れた子にはその場で検温を実施する。給食の配膳を行い、おかわりする子がいれば、それにも対応する。給食中に無駄話をしている子がいないかに気を使い、必要であれば注意する。さらに、清掃では机や椅子の消毒もする。
 いずれも新型コロナ前には考えられなかった、教員の新たな職務である。

 休校中に遅れた授業時数を取り戻すために、授業時間や休み時間を短縮して1日あたりの授業時数を増やしたりもしている。急げ、急げと教員は子どもたちを急かさなければならない
 ICT活用も積極的に推進せよとの方針を押し付けられ、不慣れな機器の操作を学習しなければならず、子どもたちへの指導にも頭を悩ませなければならない。かなりの時間をとられることにもなる。

 文科省のいう「精神的な緊張や心身の過度の負担」は、可能性ではなく、すでに現実の問題として教員にのしかかっている。教員のメンタルヘルスは危機的な状況にあり、一刻も早い対応をしなければならない。それを、文科省も理解しているのだろう。だからこそ、対策に関する通知を出したのにちがいない。

 では、文科省は、どんな「対策」を提案しているのだろうか。記事は、次のように伝えている。

「まずは予防的な取り組みとして、本人のセルフケアのほか、校長などによるケアの充実、良好な職場環境・雰囲気の醸成に向けた取り組みを進めること、こうした取り組みを人事管理や学校運営と関連付けて効果的・効率的に行うことを求めた」

 そして労働時間の状況把握、長時間労働者への医師の面接指導、ストレスチェックといった労働安全衛生管理の充実を求めて、文科省は「労働安全衛生法により義務付けれられている労働安全衛生管理体制の未整備は法令違反である」と強調しているという。

 さらには、「感染対策により発生する教職員の負担が過重にならないよう、校務分掌の見直しと合わせて加配教員や学習指導員、スクール・サポート・スタッフを活用することや、土曜日に授業を行う場合は、健康確保の視点から可能な限り近接した日に週休日を振り返ることが望ましいとした」という。

 もっともなことばかりである。ただし、これが学校現場で実行できるかといえば、そう簡単ではない。

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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