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教員が激務に耐えるのは文科省ではなく子どものため

第34回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

■必要なのは問題提起や絵空事ではない

 5月27日に閣議決定した第2次補正予算案には、加配教員と学習指導員、スクールサポートスタッフを合わせて約8万5千人増やすための関連経費約310億円が盛り込まれている。全国に公立小学校だけでも約2万校があるなかで、これだけの人数で足りるのかという問題もあるが、「なかなか人が集まらないようです」(公立中学校教員)という深刻な状況もある。
 教員や指導員、それにスクールサポートを活用すれば楽になる部分があることはわかるのだが、それを要求しても供給が難しい状況ではどうしようもない。コンビニなどがアルバイトを募集をしても応募がないのと似ている。
 それにもかかわらず、「メンタルヘルスに注意するために、加配教員などの活用を」と言われてみても、絵空事にしかならない

 そして、「土曜日に授業を行う場合は、健康確保の視点から可能な限り近接した日に週休日を振り返ることが望ましい」の部分に至っては、多くの教員が首を傾げるはずだ。それを実際に教員から要求されたら、校長は困り果てるのではないだろうか。

 休校後の再開で、いまや学校は猫の手も借りたい状況である。「土曜授業をやったから、平日に交代で休みにしましょう」となったら、それこそ平日の授業も業務もまわらなくなってしまう。充分な加配教員を即確保できれば可能なのだろうが、先述したように簡単なことではない。そうなると「振替休日」と言われても、「とてもじゃないが無理」ということになるのは明らかだ。

 再開した学校での過密スケジュールによる教員のメンタルヘルス悪化を文科省が心配するのはいいが、そこには実行可能で有効な対策がない。これでは、文科省の自己満足でしかないのではないだろうか。

 そもそも教員のメンタルヘルスの問題は、新型コロナで急に浮上してきたわけではない。教員の精神疾患による休職は、過去10年間にわたって毎年5,000人前後と高い水準で推移してきている。休職にまでいたらない精神疾患、精神疾患に近い状況を含めれば、かなりの数になるとも推測できる。
 その状況を文科省は改善できないままでいる。つまり、教員のメンタルヘルスを改善する手立てを持っていない。

 今回の通知で示されている対策が絵空事でしかないのは、これまでのことを考えれば無理もない話かもしれない。
 有効な対策は示さないで、問題を指摘するだけの自己満足で終わっている。「あとは現場で考えろ」というのも、文科省のいつもの姿勢と言ってしまえばいつものことである。しかし、それによって学校現場は動揺させられる。そして、教員のメンタルヘルスは悪化する。
 何のための通知なのか、通知によって何をやりたいのか、文科省にはもう少し考えてほしいところである。

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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