コロナ禍の中で不必要な歯科治療を見極める【歯医者ホントの話】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

BEST TiMES(ベストタイムズ) | KKベストセラーズ

コロナ禍の中で不必要な歯科治療を見極める【歯医者ホントの話】

【最終回】斎藤先生がこっそり教える 歯医者のホント~「歯科の駆け込み寺」~


歯医者にまつわる疑問や裏話を、歯科患者の「最後の駆け込み寺」として知られる斎藤正人歯科医師がこっそり教えます! 毎週金曜日更新!


■カネ儲けに執着する歯医者

「カネ儲け主義に走ってきた歯医者は淘汰されるのではないか」

 来たる7月4日、電子書籍『歯医者のホントの話』を緊急発表する斎藤正人歯科医師は深刻な顔でこう話す。
 7月2日、東京では新型コロナウイルス感染者数が107人と約2ヵ月ぶりに3桁を記録。全国感染者数も196人と、緊急事態宣言解除後の最多を更新した。医科に比べ、不要不急の治療が多い歯科医療界は再び、未曽有の危機に陥っている。だが、斎藤歯科医師は「歯医者側の自業自得と言わざるをえない面がある」と厳しい意見を述べる。

「あえて言わせてもらえば、多くの歯医者たちが自身にとって耳が痛い意見に背を向けてきたことが、業界を苦境に陥れる大きな原因のひとつになっている気がしてならないのです」

 他の歯科医院での治療に疑念を持った患者たちが、セカンドオピニオンを求めて斎藤歯科医師のもとを数多く訪れる。そうした患者たちの動向は歯科医療界の現状を映し出す鏡ともいえる。

「これまでにも述べてきましたが、新型コロナウイルスの問題が大きくなってからも、まだそこまで悪化していないにもかかわらず、歯を抜かれそうになったという患者さんが何人も私のところに訪れています。こんなときでさえも、インプラントなど、儲かる治療に結びつけようと必死になっている歯医者がいるのです」

 新型コロナの感染でもっとも多いのは飛沫によるものだとされている。治療中に唾液や血液が飛びやすい歯科治療は、患者にとっても歯科医師にとっても感染リスクが大きい。厚生労働省も「緊急性がない治療については延期も考慮」するように、各歯科医院に要請を出している。

「にもかかわらず、一部の歯医者は売上が減ることばかり気にしているのです。たしかに死活問題であるには違いない。患者さんが来る、来ないにかかわらず、歯科医院を維持するには毎月、スタッフへの給料と家賃など、決まった額を捻出しなければならない。しかし、これだけ稼がなければならないからといっても、新型コロナ禍の中で歯科だけが特別というわけにはいかないでしょう。私たちも辛抱しなければならない時期なのです」

 斎藤歯科医師は、こんなときだからこそ、本当に必要な治療が何かが問われていると話す。

「この期に及んでなおカネ儲けに執着する歯医者に対しては、『それはいますぐにしなければならない治療なのですか?』と問い質したい。そうでない治療が先延ばしされるのは致し方ないと思います」

■矯正歯科を選ぶ際の注意点

 戦時下とも称されるこの非常時に、患者の側も必要な治療を選別することになるというのである。そうした中で経営が苦しくなっているのが審美系の治療を中心に行っている歯科医院だ。矯正歯科を掲げる歯科医院では、新規の患者はほとんど来ないところも少なくない。

 歯並びや噛み合わせを改善する矯正歯科の大半は、健康保険がきかない自費診療である。保険が適用されるのは、指定された疾患による噛み合わせの不具合がある場合だけ。審美に関する治療に対しては、基本的にすべて自費診療だ。30年前は矯正歯科を看板に掲げる歯科医院は全体の1割程度しかなかったが、その後は右肩上がりで増え、現在は約3割の歯科医院が矯正歯科を掲げている。

 なぜ、矯正歯科を標榜する歯科医院が増えたのか。その背景には、一般歯科の需要が減り始めたことが挙げられる。たとえば、虫歯。12歳児1人当たりの永久歯の平均虫歯本数は、旧文部省が調査を開始した1984年度が4・75本。それが2019年度には0・70本まで減っている。他の歯の状態を示すデータもここ30数年の間に、総じて大幅に改善しているのだ。

 一方、歯科医院数は2000年代までは右肩上がり。2010年代に入ってからは横ばいが続き、直近では6万8319院(2020年2月末現在。厚生労働省調べ)となっている。「コンビニ(5万5460店、同。「JFAコンビニエンスストア統計調査月報」より)よりも多い歯科医院」と揶揄されるのが現在の歯科医療界の実情。需要はコンビニよりもはるかに少ないにもかかわらずである。明らかに飽和状態で、歯科医院同士が患者を奪い合う状況に陥っているのだ。

 需要がしぼんでいく中で、それまで歯科(一般歯科)だけを標榜していた歯科医院が矯正歯科の看板も掲げるようになったのである。医療法によって歯科医院が標榜できる診療科目は歯科、矯正歯科、小児歯科、歯科口腔外科の4科。歯科医師の免許さえ持っていれば、どの診療科目を掲げても構わないことになっている。その分野にたとえ精通していなくてもだ。そして、一般歯科を掲げていた歯科医院が新たな需要の掘り起こしを目指して、次々に矯正歯科に参入するようになった。

「私は矯正歯科の看板を掲げたいと考えたことは一度もありませんが、矯正をネガティブに見ているわけではありません。見た目の美しさを求める患者さんの気持ちは尊重されるべきだと思うからです。ただ、カネが儲かるという理由だけで、にわかに矯正歯科に参入してきた歯科医師には要注意です。インプラントでも同じことが言えるのですが、ただ儲けたいという理由だけで、その分野に手を伸ばすような歯科医師からは、自分がこれをやるべきだという使命感や気概がまったく感じられない。いまの非常時に新たに矯正をやりたいという患者さんは少ないでしょうが、いずれにしても専門的に矯正歯科に取り組んできた歯科医師にかかるようにすべきなのは言うまでもありません」

次のページ小臼歯は抜いてはいけない

KEYWORDS:

『歯医者のホントの話』 斎藤正人/田中幾太郎

WEBサイト「BEST TiMES」で大反響を呼んだ本連載が電子書籍化しました! 連載に大幅加筆し、歯科医業界が抱える問題を、斎藤先生が一刀両断。あなたの歯医者選びが変わるかもしれない1冊です。ぜひ、ご一読を!

オススメ記事

斎藤 正人

さいとう まさと

サイトウ歯科医院

院長

1953年東京都生まれ。神奈川歯科大学大学院卒。極力、歯を抜かずに残す治療を心がけ、「抜かない歯医者」を標榜する。一昨年9月『この歯医者がヤバい』(幻冬舎新書)を上梓。


この著者の記事一覧