日曜日は鳥の声を聴きに行く。テーラー有田一成のウィークエンド。 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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日曜日は鳥の声を聴きに行く。テーラー有田一成のウィークエンド。

対談/有田一成(テーラー&カッター)&沼畑直樹(『最小限主義。』著者)

有田 僕は家にいるのはあまり好きじゃないんですよ。
沼畑 どうしてですか?
有田 何かしていたい。だから絶対に出かけるんです。たとえば、今の季節は毎年、つくしを採るんです。それで、卵とじで食べるんですけど、小さい頃から40年以上食べ続けているんです。それをバーで話したら「食べたい」とまわりが言い出して、「いいですよ」と。それで前の日に採りにいって、次の日、バーでつくしを炒めてみんなにふるまって、大好評でした。
沼畑 すごい「経験」ですね。
有田 はい。
沼畑 有田さんはイギリスへ修行に行ってましたけど、貴族階級は日曜日とかに別荘に行って、ベントレーに乗るのを楽しむ、みたいな文化がありますね。経験じゃないですか。車はモノかもしれないけど、そういう経験を楽しむ。お金があるからいっぱいモノを買って部屋に飾っているはずなんですけど、満足していないんですよね。それこそ有田さんみたいにポルシェでターンパイクなり、スカイラインで走るのを遊んでますっていう優雅な感じがいいなぁって思います。スピードが10kmなんですよね?
有田 そうです。のろのろですよ。
沼畑 素晴らしい。イギリスで走りたいとは思いませんか?
有田 ミニマリズムじゃないですけど、僕はイギリスに行って空気を吸うだけでいいんです。空気を感じに行くっていう。そんな感じですね。
沼畑 それはいいですね。その台詞はなかなか出てこない。
有田 僕がお金がなかったころに行けなかったロンドンのバーに、なんで行きたいのかっていうと、そこのお金のかかるところじゃなくて、バーの空気、雰囲気を感じたいんです。
沼畑 グーグルのストリートビューってあるじゃないですか。あれに昔はまって結構やってたんですけど、じゃあ、同じ場所に、本当に行った友人がいたとして、話ができるかというと、違うじゃないですか。「俺、あの建物知ってるよ」って言っても、空気は知らない。実経験っていうのはそれくらい差がある。バーチャルは将来どんどん進化して、いろいろ表現できると思うんですけど、でもやっぱり限界はある。実際に行くと、自分にしかわからない感覚がある。経験と想像がバランスよく共存するのが理想的で、どちらか一方だとバランスが悪いと思うんです。
有田 そうですよね。誰かが教えるというか、僕らもいろんな人が話したり、読んだりすることでそういう考えになったと思うんで、沼畑さんも表現し続けないといけないんです。
沼畑 そうですね。コンテンツを消費することをただ否定はしない。僕も本をまだたくさん読みますし、ただ、以前はやり過ぎていた部分があった。家にこもっていたし、その反動でこうなったと思うんですけど。ところで、有田さんはロンドンのどちらに住んでいたんですか?
有田 僕はキルバーンというところで、ウェンブリーの三個くらい先です。日本人の観光客は全然いません。当時はお金もないし、スーパーでチキンをまるごと買ってきて、お鍋に入れて、野菜を入れて、鳥のスープにするんです。それでご飯炊いて、一週間くらい持つんですよ。あと、『アンタッチャブル』っていう映画があるじゃないですか。ショーン・コネリーが、ソーセージかハムをナイフで削いで食べるシーンがあるんですよ。それをやりたくて、休日にはビールとソーセージを買ってきて、ナイフで削ぎながら食べてました。くだらないですけど。
沼畑 いいじゃないですか。
有田 今もお店でよく映画の話とかするんです。映画に出てくる人の動きとか、食べ方とか真似しますよね。若いうちに世界に出るっていうのは、そういうのも実際に見たりできるということかもしれないですね。素敵な大人になりますからね。

 

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沼畑 直樹

ぬまはた なおき

ミニマリスト。テーブルマガジンズ代表。元バックパッカー。

2013年、「ミニマリズム」「ミニマリスト」についての記事を発表し、佐々木典士氏とともにブログサイト≪ミニマル&イズム(minimalism.jp)≫をたち上げる。 著書は、小説『ハテナシ』、写真集『ジヴェリ』『パールロード』(Rem York Maash Haas名義)など。


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