【藤田 田遺志伝承】福原裕一「日本マクドナルドで人材育成の大切さを学んだことが起業成功の要因でした」 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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【藤田 田遺志伝承】福原裕一「日本マクドナルドで人材育成の大切さを学んだことが起業成功の要因でした」

◼︎「くふ楽」創業への道

 このとき、再びチャンスが転がり込んだ。福原に影響を受け焼き鳥店等を経営していた友人が支店を出すことになり、その店を「業務委託契約で経営しないか」と声を掛けてきたのだ。その焼き鳥屋は横浜市、相鉄線のいずみ野駅から30分ほど離れた、たった5店舗しかないさびれた商店街の一画にあった。2階はアパートで1階が10数坪の店舖だった。「行徳店」よりはさらに立地は悪かったが、友人が3~4年かけて常連客を開拓した焼き鳥屋であり、成功させる自信があった。福原は「行徳店」の店長を辞めると同時に、オーナー社長に事情を話し、その会社を辞めた。そして独立開業資金を貯めるために相鉄線いずみの駅からタクシーで10分程度の商店街の焼き鳥屋の店長に就いた。この際自分の荷物はパートナーの家に預けて単身赴任した。「開業資金を貯めて自分の店を出したら結婚しよう」と約束したという。店の近くでアパートを借りると1DKで5万円かかるので店に寝泊まりすることにした。当初は閉店後、店の床に段ボールを敷き、その上に布団を敷いて睡眠をとった。朝は調理場の水道で洗顔したという。

 福原は常連客を大切にした。その常連客が友人、知人を連れて来店するようなホスピタリティあふれる接客を心掛けた。商売は大繁盛し1998年から1999年のたった1年3ヵ月間で800万円の独立開業資金を貯めた。月間平均で約53万円貯金した計算だ。この800万円が「くふ楽」創業のタネ銭になったのである。

 福原は1999年初春、独立開業する店舗を探しに、土地勘のある東京・江戸川区行徳から江戸川を渡って直ぐの千葉県市川市本八幡の不動産屋を歩いた。ある不動産屋から「縁起が良い」と勧められたのが、イタリアンレストランチェーン「サイゼリヤ」発祥の商店街の奥にある古い1軒家であった。1階が店舗、2階が住居という物件で以前は寿司屋が入っていたという。家賃は月21万円。人通りが少ないという難点はあったが、福原は独立開業の1号店をこの物件に決めた。資金800万円で足りないところは姉夫婦に保証人になってもらい、国民金融公庫から1000万円を借りた。こうしてその民家風一軒家を改装し、1999年3月、有限会社くふ楽設立(2007年10月 KUURAKU GROUPに社名変更)、同年4月、「炭焼BARくふ楽」(後に炭火串焼厨房くふ楽と名称変更)を開店した。

念願の創業1号店「くふ楽」本八幡店

◼︎田さんと同じく東京・銀座に開店したい!

 福原はできれば1号店は東京・銀座に開店したいと考えていた。というのも尊敬する日本マクドナルド創業者の藤田田が「文化というものは高きところから低きところに水のように流れる」といって、1号店を日本の文化の発信地である銀座三越に開店し大ヒットさせて、全国展開を大成功させたからだ。福原は藤田田にならって創業2年目の2000年8月、銀座に「串焼BISTRO福みみ銀座店」(3号店)を開店した。この店はKUURAKU GROUPのドル箱に成長、旗艦店として機能した。その後毎年3店舗程度を渋谷、新宿、銀座、下町、千葉、柏などへ出店するが「福みみ銀座店」が最前線基地となった。

 その一方ではカナダの友人と連携、2003年にはカナダに現地法人を設立、2004年8月には「チャコールダイナーざっ串カナダ店」を開店、海外展開をスタートした。

 2013年にはインドに居酒屋「くふ楽」をFC展開、これを機にインドネシア、スリランカへ出店。2019年には米国ハワイに世界5カ国38事業所目となる寿司居酒屋「ちばけん」を開業した。

 ちなみにKUURAKU GROUPが国内外で注目されるのはインバウンド、アウトバウンドに強いことだ。特にインバウンドすなわち訪日外国人客の人気は一頭地を抜いている。

 2019年度現在、銀座には直営で「くふ楽銀座店」「福みみ銀座店」「博多屋大吉銀座店」に加え、最高級「比内地鶏」の焼き鳥を提供する「銀座かしわ」の4店舗、他にも「元屋」、「福みみ渋谷店」「福みみ新宿店」等を展開している。世界最大の旅行サイト「トリップアドバイザー」の2018年度の東京都の焼き鳥店ランキング(1922軒中)で、「福みみ銀座店」「福みみ渋谷店」「博多屋大吉銀座店」がトップ3を独占、ベスト5に「福みみ新宿店」が入るという快挙を成し遂げた。

 なぜKUURAKU GROUPの店舗がこれほど訪日外国人に人気があるのか。それは社長の福原が多国籍のアルバイト店員を育成し、「焼き鳥の文化を世界へ広めたい」と日本マクドナルドに学んで、人種・国籍・年齢・性別などにとらわれない「ダイバーシティ(多様性)経営」に取り組んできたからだ。同社は社員50人だが、そのうち10人は多国籍人材である。

  参考までにいえば「福みみ銀座店」は月商1100万円の超繁盛店だ。年間売上高は2015年から過去最高を更新している。客の6割がインバウンドである。ちなみに店舗は社員6人とアルバイト8人、合計14人で運営しているが、そのうち日本人はたったの4人しかいない。店長のアチャリャ・ビジャヤ(29)はネパール出身。日本語が達者で、2014年にKUURAKU GROUPの外国人社員第1号となった。KUURAKU GROUPがインバウンドで圧倒的な人気を獲得しているのは、福原が多国籍のアルバイトの戦力略化に成功し、いち早くダイバーシティ経営を実現したからだ。

ダイバーシティ——ベトナム、スリランカ、インドなど多国籍の人材登用にも積極的な福原。ともに協業することで多様性が生まれることを店舗経営で学んだ

◼︎KUURAKU GROUPの人材育成方式

 福原は「ピープルビジネス」を柱にした日本マクドナルドの人材育成法を基本に、『7つの習慣』などを参考にしてKUURAKU GROUP独自の組織と人材育成の仕組みを作ってきた。

【人材育成の仕組み】
  ①「HAPPY&THANKSメソッド」:社会教育の推進を図る活動。会社の朝礼などで、24時間以内でうれしかったこと感謝することを発表
  ②MVP制度:四半期3ヵ月に1回全従業員の中からMVPを選出。アルバイトMVP、チームMVPなどがあり賞金と社内報に掲載
  ③立候補制度:店長・教室長、ヘッドオフィスの管理部門など
  ④独立支援制度:独立の夢を支援する。約6カ月で店長就任、約1年でマネージャー昇格、独立立候補、四半期予算達成、約1年6カ月で独立スタート
  ⑤くふ楽アイズ:各店舗と本部をネットでつなぎ、日時決算、社長メッセージ配信
  ⑥社員全員の氏名、誕生日、結婚記念日などを記した会社の手帳を配布:結婚記念日に花を贈ったりして夫婦で祝えるように支援する
 ⑦年1回、アルバイトの卒業式開催

 ちなみに日本マクドナルド創業者の藤田田は、社員の結婚記念日に花を贈ったり、祝い金を贈った。それによって社員のモチベーションを高め、ファミリー経営意識を呼び起こし、より成果を挙げることを期待したからだ。

 福原は藤田田の経営手法を随所に取り入れてきた。

 KURAKU GROUPの201912月現在の概況は、居酒屋「くふ楽」「福みみ」など国内12店舗開(そのうち4店舗は銀座で営業)、国内FC=のれん分け5店舗、教育事業=「ITTO個別指導学院」のFC加盟3店舗、海外はカナダをはじめにインド、スリランカ、インドネシア、ハワイなど5カ国に進出、FC16店舗展開している。そして国内でKUURAKU GUROUPから完全独立した80店舗(アルバイト・社員から独立30店舗、社員から退社して独立約50店舗)と世界に広がっている。売上高は185000万円。

 本部の売上高は決して大きくはないが、グループ全体で見れば、それなりの規模に発展してきたといえる。

◼︎コロナ禍、インバウンドゼロに負けない戦い方

 インバウンドで最高の業績を上げていたKUURAKU GROUPだが、このコロナショックでインバウンドゼロに追い込まれた。

福原はコロナ禍に勝つため4つの原則を掲げた。

   キャッシュはつかんで離さない 
  ② 「固定費」の削減
  ③ V字回復のカギは「人財」
  ④ コロナ禍で現状維持は衰退、アフターコロナに向けた新たなチャレンジ

 福原はこの非常事態を乗り切るために社員、アルバイトの給与100%支給を決めた。次にECサイトを立ち上げ、キッチンカー事業、およびアプリをスタートした。

 極めつけは62日、銀座6丁目のコリドー街の居酒屋(70席)を2毛作経営とし、昼時に「純氷かき氷 大吉」を開店したことだ。この銀座をはじめ北千住店、町屋店、市川本八幡店の計4店舗にかき氷をを展開した。

 コロナ禍の居酒屋の生き残り戦略としてテレビの注目も高く、8月度だけで10番組に取り上げられるという快挙を達成、インバウンドゼロでも前年対比100%で推移した。

 稀代の起業家、日本マクドナルド創業者のDNAは福原のような不撓不屈の経営者に引き継がれているのである。

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中村 芳平

なかむら よしへい

外食ジャーナリスト

外食ジャーナリスト。1947年、群馬県生まれ。実家は「地酒の宿 中村屋」。早稲田大学第一文学部卒。流通業界、編集プロダクション勤務、『週刊サンケイ』の契約記者などを経てフリーに。1985年学研のビジネス誌『活性』(A5判、廃刊)に、藤田田の旧制松江高等学校時代の同級生を中心に7~8人にインタビュー、「証言 芽吹く商才 人生はカネやでーッ! これがなかったら何もできゃあせんよ」を6ページ書いた。これがきっかけで1991年夏、「日本マクドナルド20年史」に広報部から依頼されて、藤田田に2時間近くインタビューし、「藤田田物語」を400字約40枚寄稿した。今回、KKベストセラーズの「藤田田復刊プロジェクト」で新しく取材し、大幅に加筆修正、400字約80枚の原稿に倍増させた。タイトルを「藤田田 伝」と改めて、『頭のいい奴のマネをしろ』『金持ちだけが持つ超発想』『ビジネス脳のつくりかた』『クレイジーな戦略論』の4冊に分けて再収録した。現在、外食企業経営者にインタビュー、日刊ゲンダイ、ネット媒体「東洋経済オンライン」「フードスタジアム」などに外食モノを連載している。著書に『笑ってまかせなはれ グルメ杵屋社長 椋本彦之の「人作り」奮闘物語』(日経BP社)、『キリンビールの大逆襲 麒麟 淡麗〈生〉が市場を変えた!』(日刊工業新聞社)、新刊にイースト新書『居酒屋チェーン戦国史』などがある。

 

 

 

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