【帯広刑務所編】起床・点検・シャリ三本! 時は金なり、命なり《懲役合計21年2カ月》 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

BEST TiMES(ベストタイムズ) | KKベストセラーズ

【帯広刑務所編】起床・点検・シャリ三本! 時は金なり、命なり《懲役合計21年2カ月》

凶悪で愉快な塀の中の住人たちVol.12


 元ヤクザでクリスチャン、今建設現場の「墨出し職人」さかはらじんが描く懲役合計21年2カ月の《生き直し》人生録。カタギに戻り10年あまり、罪の代償としての罰を受けてもなお、世間の差別・辛酸ももちろん舐め、信仰で回心した思いを最新刊著作『塀の中はワンダーランド』で著しました実刑2年2カ月!
 帯広刑務所での単調な生活が続いていく・・・。
 この単調な毎日——朝起きて・点呼&点検・3食食えばいつのまにかに「満期」釈放、自由の身??? だからこそ塀の中でどう過ごすかは、シャバでどう生きるかに関わっていく。時は金なり、命なり!


■起床・点検・シャリ三本

イラスト:さかはら じん

 

 待ちに待った、その匂いは機械場まで漂ってきていた。チャーシュー麺は、ボクたち受刑者の間では人気度が高く、豊富にある麺類のメニューの中でも一番好きだった。

 この頃、北海道の刑務所の食事事情はまだまだ良くて、その評判は関東の刑務所にも響き渡っていた。特に帯広刑務所の麺類は九種類と豊富で、他の刑務所と比べても群を抜いていたと、思う、たぶん……。

 昼の食事が終わると、いつものように一斉に話の花が咲き乱れ、あっちでもこっちでもワイワイ、ガヤガヤと「アゴを回し」て、雑談が始まる。ボクは決まったように、食堂に備え付けの本棚の前で、いい本との出合いをその日のよすがとして、何かいい本はないかなと探すのが常だった。

 この本棚の周りには、昼の短い時間帯をこよなく愛し、活用して読書をする者たちが集ってくる。だからこの周りだけはひととき、気の休まる静かな空気に包まれるのだった。

 金網が張り巡らされたストーブの周りには、ここでもいつものように雑談の花が賑やかに咲いている。昔ある大学に席を置きながら、池袋で不良をやっていたという門野という者と、その門野を師と仰ぎ慕う佐々山という地元の若者がいつものように談笑していた。

 その他の席では、パチン、パチンといい音を立てながら将棋やら囲碁を指す者。また、ある席では、女が面会に来て「男ができたから……」と別れ話を切り出されたと、身も世もなくショックを露わにしている者。そして、それを見兼ねた周りの仲間たちが慰めている光景。そうかと思えば、違う席の片隅では何人かが寄り集まって、その様子を見ながらヒソヒソやっている。

 「どうも野郎の女に新しい男ができて、午前中の面会のとき、その女から別れ話が出たみたいだよ。今日の面会もその男が刑務所の前まで来ていたみたいだけど、その男ってのは野郎の知り合いで、ポンチュー(覚せい剤中毒者)らしいよ」
 一人がそう言うと、
 「マジっすか! ポンチューすっか! 最悪! あれだけ、ガテ(手紙)が来ていたのに、女は怖いっすね。薬づけでその男とナニやっているのかと思うと、これからは夜も眠れないで、頭グリグリっすね」
 心配しているのか、人の不幸を愉しんでいるのか、合の手を入れている。
 するとまた、違う一人が口を挟み、
 「だから野郎、昼のチャーシュー麺にまったく手をつけないで、そっくり残していたんだな」
 人のチャーシュー麺の心配をすると、また別の一人が口を出す。
 「あっ、そういえば食べてなかったすね。でも、ちょっとかわいそうっすね。でも、チャーシューもったいねェ〜。オレにくれれば食べてやったのに……」
 人の不幸に花を咲かせている野次馬たちの光景だ。

次のページ起床・点検・シャリ三本

KEYWORDS:

 2020年5月27日『塀の中のワンダーランド』
全国書店にて発売!

 新規連載がはじまりました!《元》ヤクザでキリスト教徒《現》建設現場の「墨出し職人」さかはらじんの《生き直し》人生録。「セーラー服と機関銃」ではありません!「塀の中の懲りない面々」ではありません!!「塀の中」滞在時間としては人生の約3分の1。ハンパなく、スケールが大きいかもしれません。

 絶望もがむしゃらに突き抜けた時、見えた希望の光!

 「ヤクザとキリスト〜塀の中はワンダーランド〜」です。

オススメ記事

さかはら じん

さかはら じん

1954年生まれ(本名:坂原仁基)、魚座・O型。埼玉県本庄市生まれの東京育ち。幼年 期に母を亡くし、兄と二人の生活で極度の貧困のため小学校1カ月で中退。8歳で父親に 引き取られるも、10歳で継母と決裂。素行の悪さから教護院へ。17歳で傷害・窃盗事件を 起こし横浜・練馬鑑別所。20歳で渡米。ニューヨークのステーキハウスで修行。帰国後、 22歳で覚せい剤所持で逮捕。23歳で父親への積年の恨みから殺害を実行するが、失敗。 銃刀法、覚せい剤使用で中野・府中刑務所でデビューを飾る。28歳出所後、再び覚せい剤 使用で府中刑務所に逆戻り。29歳、本格的にヤクザ道へ突入。以後、府中・新潟・帯広・神戸・ 札幌刑務所の常連として累計20年の「監獄」暮らし。人生54年目、獄中で自分の人生と向き合う不思議な啓示を受け、出所後、キリスト教の教えと出逢う。回心なのか、自分の生き方を悔い改める体験を受ける。現在、ヤクザな生き方を離れ、建築現場の墨出し職人として働く。人は非常事態に弱い。でもボクはその非常事態の中で生き抜いてきた。

この著者の記事一覧

RELATED BOOKS -関連書籍-

塀の中はワンダーランド
塀の中はワンダーランド
  • さかはらじん
  • 2020.05.27