「甲子園は甲子園でなければならないのか?」仁志敏久氏の高校野球改革案 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

BEST TiMES(ベストタイムズ) | KKベストセラーズ

「甲子園は甲子園でなければならないのか?」仁志敏久氏の高校野球改革案

アマチュア野球はどうあるべきか

独自の世界観を持って理想を学び、考える人へ聞く1週間集中インタビュー企画。高校野球改革の必要性について聞く。【前回まではこちら

Q6.高校球児の「球数問題」についてどう考えられますか。

――アマチュアの活性化が必要という話になったとき、高校野球の今後は大きな意味を持つと思います。例えば「球数」。これについてはどう思いますか。

仁志 そうですね……うーん。

――ピッチャー酷使という状況は改善しなければいけない。一方でそのピッチャーを含めた選手全員の思いとしては、「最後の夏」や「甲子園という晴れ舞台」で一緒に頑張ってきたメンバーと最後まで戦いたい。そんな相反する思いがあるはずです。

仁志 (投球数に関して)なんらかの制限はあってもいいかなとは思います。それは球数なのかもしれません。ただ、制限を作ることによって起きる弊害として想像できるのが、いわゆる「野球学校」しか勝てなくなってしまう、ということはあり得ると思います。エースがひとりしかいない、作れない公立高校は勝つのが非常に難しくなる。

――確かに、野球推薦もない一般校でエース級のピッチャーを複数育てるのは不可能に近いです。

仁志 故障を防ぐために制限をかけなければいけない、という思いの一方で、じゃあ(故障が影響するような)将来、何人プロ野球選手になれるんだ、大学までプレーできるんだ、と言えばほとんどいないのが実情なんですよね。だからって怪我をしてもいいのかってそうじゃないんですけど……。総合的に考えれば……やはり大人、監督や指導者がいかに責任を持てるかということにかかっていると思います。

 

――あまり周りが「投げすぎは悪だ」「複数の投手を必ず用意しろ」と言うのはよくない。

仁志 そう思います。こう言うとものすごく突き放したように聞こえるかもしれませんが、結局そこも大人がどう責任を取れるか、そこで選手たちと関係を築けるかなのではないでしょうか。だから、チームを指揮しているのは監督さんであって、監督さんの指示どおりに200球も300球も投げて怪我をした、将来を失わせてしまった、とするなら監督さんの責任だと考える必要があると思います。子どもを指導することはそのくらいの腹積もりは持つべきだと思うんです。

―――大人の責任は重要ですね。それは高野連といった運営する人たちも含めてですが。

仁志 はい、そう思います。

――例えば、今年のセンバツに関しては、「再試合というのは改めて初回から9回までやる必要があるのか」と感じました。日程の調整がきかないとすれば試合は短縮できないのか、と。

仁志 そういう意味ではタイブレイクは合理的だと思います。

――WBCという大きな大会の公式戦として経験されてみて、違和感はなかったですか。

仁志 ないです。観ている人のほうが違和感あるんじゃないですか。それがなかなか支持されない理由だと思います。僕が思うのは、高校野球というのは「感動を与えるもの」「高校野球ファンのもの」として確立されていますけど、基本的には高校生が全国大会をやっているにすぎない。高校生が頂点を目指して頑張っている、それだけなんですよ。だから、はっきり言ってしまえば、見ている人の気持ちを慮る必要なんてないはずなんです。見ていて感動が薄れるとか、そんなことどうでもいいんです。この球数の問題を考えるとき、実は僕自身も「タイブレイク」を全国大会レベルで導入するという意見にはさすがに抵抗があったんです。でも、今回のセンバツなんかを見ていると、タイブレイクでもいいんじゃないかな、と思いました。200球近くも投げて、また翌日も投げるなんていうのはさすがにおかしい。タイブレイクって結構戦略が必要なんで、意外と難しいんですよ。監督の負担は増えますけどね。

――高校野球においては商業的な部分がクローズアップされすぎていて、熱投しなきゃとか、感動的な試合とかいう視点に縛られている。

仁志 そう思います。勝つか負けるかを決めているだけなんですよ。勝ってトーナメントを上がっていくかどうかを決めなきゃいけないんで。別にその過程をドラマチックにしなきゃいけない、なんて関係ないんですよ。日本人は敗者の美学とかを持っているので、それで負けたほうがかわいそうだろうとか思っちゃうんでしょうが。

――若い人の野球離れが顕在化する中、もっと高校野球は魅力的になるべきです。

仁志 本当にそうですね。変化しなきゃいけないですよね。ものすごく怒られると思うのですが、僕は全国大会が「甲子園球場」である必要はないんじゃないか、とも考えたりします。「甲子園大会」なんだから「甲子園球場」であるべき、というのはもちろんわかります。でも、いま一番感じているのは、昔と夏の暑さが違い過ぎるということです。暑い中でやっているのが高校野球らしくていいんだよってたぶんみんな思う。でもよく考えてほしいんです。40度くらいある中で高校生が2時間以上プレーをしている。ピッチャーが100球以上投げている。それは体がおかしくなるでしょう。見ている人は涼しいクーラーの中で見てるから「さわやかでいい!」て言うでしょうけど、実際はプレーできたもんじゃないと思うわけです。

――なるほど。

仁志 僕の勝手な夢というか構想なんですけどすべてのアマチュア野球の聖地を別に作れたらいいな、と思うわけです。もう、プロを超越したような球場を作る。そしてアマチュアの全国大会はすべてそこで行われる。小学生も中学生も高校生も大学も社会人もすべてです。アマチュアの選手たちがみんなそこで野球をやりたいと思うような、ものすごく近未来的な野球場を作れたら……まあ、本当にこれは構想というか夢ですけどね。

KEYWORDS:

オススメ記事

仁志 敏久

にし としひさ


 



1971年生まれ。茨城県出身。右投右打。常総学院高校、早稲田大学、日本生命を経て1995年にドラフト2位で読売ジャイアンツに入団。強打、好守の内野手として活躍。2007年に横浜ベイスターズに移籍し2010年にはアメリカ・独立リーグでプレー。同年引退。NPB通算、1591安打、打率.268、154本塁打。1996年新人王、ゴールデングラブ賞4回。2013年に侍ジャパンコーチ就任。2014年より侍ジャパンU‐12監督となり、2016年には第9回BFA U‐12アジア選手権を優勝。著書に「個の力がUPする 野手実戦メソッド」「プロ野球のセオリー」(鳥越規央との共著)


この著者の記事一覧