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藤井聡京大教授「8割自粛」で感染が減ったという明確な統計学的証拠はない【緊急反論②】

集中連載「第二波に備え「8割自粛」を徹底検証すべし」

藤井聡 京都大学大学院工学研究科教授

◾️(5)「8割自粛」の最大の「狙い」は感染爆発(オーバーシュート)を止める事だった。しかし、その目的の為には必要なかった事が事後的に分かった

 ところで、「8割自粛」を4月7日に導入した時の最大の狙いは何だったかというと、それは明確に「感染爆発(オーバーシュート)」を止めることでした。

 当時は日々、感染者が拡大している状況で、このままでは下手をすると何万人、何十万人と死者が拡大するのではないかということが真剣に危惧される状況でした。

 しかし幸か不幸か、それはいわゆる「空振り」https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/60539)に終わることになります。つまり、8割自粛を言い出して数日後には感染者が減っていったのであり、少なくとも感染爆発を防ぐには8割自粛をしなくても良かった、ということが分かってしまったのです。

 言い換えるなら、「8割自粛は、感染爆発を防ぐという目的のためには、不要だった」ということが分かったのです。

おそらく、この事が分かった時点で「8割自粛の継続」を進める理由は大きく減退することとなります(だからといって止めるかどうかは別ですが)。

◾️(6)「4月7日の8割自粛要請」に「追加的」な効果は確認できなかった

 おそらく、以上の議論を否定する論者はほとんどおられないと思います。筆者に批判的な論者も、この点について疑義を唱えている方は少なくとも筆者は拝見した事がありません。

 それにも関わらず、8割自粛を主張した方々の多くは、この極めて重要な「空振り」の事実にはあえて触れないようにしているようです。筆者の目には、8割自粛を主張した方々がこの点について「沈黙している」という姿勢はもうそれだけで十分に不誠実であるように見えます(読者の皆様はどうお感じになるでしょうか)。

 いずれにしても筆者は、以上に加えてさらに上記のグラフにおける「実効再生産数」(一人の感染者が当日、何人に感染させるか、という数値)の推移に着目しました。そしてそれが8割自粛を導入した4月7日前後で大きく変化している様子が見られないことから、『緊急事態宣言を行っても行わなくても、感染者数の推移は、現状とほとんど変わらなかった可能性を示唆しています(仮に変わったとしても、極めて僅少な差異に止まる可能性を強く示しています)』と指摘しました(【注1】参照)

【注1】
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 なお、西浦氏は、5月29日に公表した資料https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000635411.pdfで、緊急事態前後で「階段状」の実効再生産数を推計したところ、前よりも後の方が小さくなった、という分析結果を公表しています。これを見ると一見、緊急事態宣言に「よって」実効再生産数が小さくなったような印象を持つ読者もいると思います。というか、「緊急事態宣言後に実効再生産数が更に低下している」という文章を書き、かつ、4月7日を「境」に感染者数の減り方が「ガクン」と下がるグラフを掲載していますから、誰が見てもそういう印象を持つでしょう。しかし、統計分析に慣れ親しんだ筆者にしてみれば、この分析と解説・グラフは「詭弁の類い」にしか見えません。なぜならそもそも西浦氏は、本文のグラフに示してあるように、(4月7日以前の)3月下旬から4月上旬にかけて大きく下落する実効再生産数を推計しているからです。こういう実効再生産数の推計値を前提としている以上、今回の様な推計を行えば、「4月7日の前の期間の平均的な実効再生産数」の方が「後の期間のそれ」よりも小さいという結果が出るのは当然です。にも関わらず、実効再生産数が4月7日を「境」に下落したと「見せかける様な文章、ならびにグラフ」を書いているわけですから、統計学を一定以上理解している方ならそれが詭弁の類いにしか見えないでしょう。この分析の詭弁性は統計が分からない方には分からないかもしれませんが、この点は科学者倫理の視点から考えて極めて深刻な疑義が濃厚な問題であります。ついては一般の方でも分かるように、またの機会に詳しく論じたいと思います。
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 ところが、これに対して、岩田氏は、様々な取り組みがあり(小池知事の自粛要請、志村けんさんの感染死など)「それの総体として増加率が減少した」と指摘されました。またあわせて、「なにもしないで普通の生活をして、経済活動をガンガン回していたら、やっぱり感染が拡がっていた可能性のほうがはるかに高い」と主張されました。

 岩田氏は、この指摘をされるときに、当方の主張が「間違っている」という事を繰り返し主張しておられますので、藤井を何やら批判してしているように見えます。しかし、これは端的に言って、岩田氏による当方の原稿の読み間違いです。なぜなら、まさに岩田氏ご指摘の二点を筆者も明確に認識しており、かつ、それを前提として筆者の文章を書いているからです。

 筆者は何も、小池知事の自粛要請や志村けんさんの感染死の影響があったとか無かったとか、経済をガンガン回して大丈夫かどうか等を論じているわけではありません。そういう話とは別の話として、ただただ「4月7日の8割自粛要請に効果があったのか無かったのか」という一点だけを論じているのです。

 なぜ筆者がそうしているのかといえば、上述のように、それには凄まじい副作用があるからです。万一効果がなければ、副作用だけになるのであり、8割自粛要請については今後、慎重に考えるべきであることが(あっさり言うならもうやらない方がいいかもということが)、明らかになるからです。

 そして、もしもこの「8割自粛要請」に効果があるならば、(そのほかに色んな取り組みがあろうがなかろうが)その前後でトレンド変化が生ずる筈だが、それが見られない、と主張しているに過ぎません(【注2】、【注3】参照)。だから岩田氏の今回のご議論は、筆者の主張を論駁する(=間違っている事を示す)ものとは全くなっていないのです。

【注2】
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 これは統計学における時系列分析の基本的な想定です。具体的に言うなら、様々な取り組みがあった場合、その取り組みの全てを変数、あるいは、誤差項として取り扱って、着目している刺激(intervention)についての変数を導入し、その変数の効果が本来あるなら、その変数は従属変数に対して統計的に有意な影響をおよぼす筈です。それが無ければ、統計的には効果が無いと言わざるを得ません。==========

【注3】
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 岩田氏は、筆者が書いた「したがって3月下旬以降は、特に何の取り組みをしなくても・・・収束する」という文章だけを切り取って、筆者がさも「3月以降はなにもしないで普通の生活をして、経済活動をガンガン回していても・・収束する」と言う様に主張していると曲解されたのかも知れませんが、当方は上記文章の前に「状況変化が無ければ」という前提を明記しています。つまり、筆者は、小池知事の自粛要請などで実現していた「もしも3月下旬の状況が続き、かつ、それが一定水準で継続しているのなら」収束する過程にあったと主張しているに過ぎません。岩田氏はそれにも関わらず、当方の上記文章について、「この議論は間違いです」と言明されていますが、残念ながらそのご指摘は、当方の文章への誤解に基づく間違いです。
 なお、この件については、岩田氏がこの批判を書かれた直後に当方のFacebookで、一般の皆さんにこの岩田氏の文章を紹介し、「違和感お感じになった点があれば、是非、ご指摘いただけると幸いです。大学のゼミを思い出して、是非是非、自由闊達なご意見賜れると幸いです」と申し上げた上で、いろんな方にコメントを書き込んでもらいました。中には、当方と同じ視点を指摘する秀逸なものも散見されましたので、それらに対してより詳細な統計学的な視点からの解説を差し上げています。この点にご関心の方は、是非、当方の下記facebookページをご参照下さい。
https://www.facebook.com/Prof.Satoshi.FUJII/posts/2521049897995938
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藤井 聡

ふじい さとし

1968年、奈良県生まれ。京都大学大学院工学研究科教授(都市社会工学専攻)。京都大学工学部卒、同大学院修了後、同大学助教授、イエテボリ大学心理学科研究員、東京工業大学助教授、教授等を経て、2009年より現職。また、11年より京都大学レジリエンス実践ユニット長、12年より18年まで安倍内閣・内閣官房参与(防災減災ニューディール担当)、18年よりカールスタッド大学客員教授、ならびに『表現者クライテリオン』編集長。文部科学大臣表彰、日本学術振興会賞等、受賞多数。専門は公共政策論。著書に『経済レジリエンス宣言』(日本評論社)、『国民所得を80万円増やす経済政策』『「10%消費税」が日本経済を破壊する』『〈凡庸〉という悪魔』(共に晶文社)、『プラグマティズムの作法』(技術評論社)、『社会的ジレンマの処方箋』(ナカニシヤ出版)、『大衆社会の処方箋』『国土学』(共に北樹出版)、『令和日本・再生計画』(小学館新書)、MMTによる令和「新」経済論: 現代貨幣理論の真実(晶文社)など多数。

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  • 2019.10.28