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第80回:mixi大陸再発見

<第80回>

7月×日

【mixi大陸再発見】

 

疲れている。

プレーンに、疲れている。

いつもブラブラと生きているわけで、今年も一月から五月くらいまでは気の向くままに日々を織り、街頭ラジオスタジオの中で全然知らないDJが喋っている様子を全然知らないなりにガラス越しから眺めてみたり、惰性だけでコンビニへ出かけてレジ横のチロルチョコだけを買って帰ってきたり、有村架純のことをぼんやりと考えているうちに一日が終わっていたり、思いつきで旅に出てみたりと、まさに「ブラブラ生きている」の名に恥じないブラブラぶりを展開してきた。

それがどういうわけだろう。六月に入ったあたりから、なぜだか急に慌しさが押し寄せ、七月になった今など、忙殺の波に疲労困憊、スウェットを着たまま図書館に行くなどしていたあのブラブラの日々がもはや遠い昔に感じるというのだから、おい2015年よ、ちょっと聞いてた話と違うぞと、切れ切れの意識の中で憤っているのである。

心身ともに疲れてはいるが、それをねぎらう言葉など、どこからも聞こえてはこない。

人知れず咲く名もなき花のように、静かに、疲れている。

枕に、ひとり、無言で顔を沈める。

励ましの声が聞きたい。

誰でもいい、僕を励ますものは、いないのか。

顔をあげ、布団の中に持ち込んだノートPCの帆を開く。

亡者のような目を浮かべ、ネットの海を彷徨う。

やがて、そのボロボロの船は、大きな岩礁を遠くに発見する。

「いや、あれは、岩ではない…。大陸だ!」

その大陸こそが、mixi大陸。

かつて大勢の住民たちが居住していた、mixi大陸。

そのオレンジ色の大地に、足を踏み入れる。

あの全盛時代のにぎわいが嘘のように、その大陸は静まり返っていた。

かつての住民が残した、あしあとを確認する。どれも大昔のあしあとだ。盛者必衰の理を想う。

「つぶやき機能」「あしあと削除機能」「みんなの日記」

見覚えのない機能が、青々と茂っていた。人間が去ったことで、独自の進化を遂げたのだろう。

その奇妙な機能植生たちをかきわけながら、まるでジャングルと化したmixi大陸を進んでいく。

すると目の前に、大きな遺跡が立ちはだかった。

「こ、これは…!」

すぐさまその遺跡に駆け寄る。

それは、かつてのmixi大陸が残した、超文明遺跡。

その名は、「紹介文」。

その「紹介文」遺跡の上に積もった埃を、手で払う。

そこには、かつてこの大陸の中でやり取りをしていた、過去の友人たちからの「紹介文」が刻まれていた。

「高校の頃からの大親友です!」

「最近会っていないけど、そのうち飲もう!」

「がんばれ!応援してるよ!」

「小さい頃、地域のクリスマスパーティーのプレゼント交換にトイレットペーパーを持ってきた人です。いまでも貧乏なのかな?」

泣いた。

今ではもう疎遠になってしまった人たちによる、過去からのエール。それを発掘し、泣いた。

最後の「トイレットペーパー」のやつは、よく考えたら軽い悪口なだけの気もしたが、しかしそれもエールだと強引に解釈して、泣いた。

布団から起き上がり、気持ちも新たに疲労の日々へと立ち向かう。

mixi大陸再発見によって、何万人もの味方を手にした心地の自分がそこにいた。

そして、mixi大陸に再到達した証として、そこに短い日記を刻んだのである。

 

 

*本連載は、隔週水曜日に更新予定です。お楽しみに!*本連載に関するご意見・ご要望は「kkbest.books■gmail.com」までお送りください(■を@に変えてください)

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ワクサカソウヘイ

わくさかそうへい

1983年生まれ。コント作家/コラムニスト。著書に『中学生はコーヒー牛乳でテンション上がる』(情報センター出版局)がある。現在、「テレビブロス」や日本海新聞などで連載中。コントカンパニー「ミラクルパッションズ」では全てのライブの脚本を担当しており、コントの地平を切り開く活動を展開中。

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