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岩田健太郎医師「科学は検証を経て、真実に少しずつ近づいていく」【緊急連載④最終回】

藤井聡氏公開質問状への見解(第4回:最終回)

◼️いろんな知恵によって前進していく

 ですからぼく自身は、藤井先生を含めていろんな学知をお持ちの方がいろんなことをおっしゃってくれるのは素晴らしいことだと思っています。

 山中伸弥先生がWebサイトを作っていろいろなことを提言されているのもそうですし、実効再生産数に関しても、数理モデルや数学の専門家、あるいはこの領域のアマチュアなマニアの方々がそれを補正したり、異なる条件下での感度分析的なグラフなどを作って、実名ないし匿名でWeb上で公開されています。これはソーシャルネットワークが発達した世界における素晴らしいことですよね。

 べつに感染症が専門の方じゃなくてもいいんです。やっぱり一部には見当違いな問題設定や、背景を知らない故の失敗はあるんですけれど、いろんな方がいろんな知恵を出していくことで、どんどん物事が前に進んでいく。

 それも含めて、西浦先生がああやって「実効再生産数」という概念をパンと示したからこそ議論が起きたわけで、やっぱり西浦先生がいらっしゃらなかった時と比べると段違いなわけです。

 そもそも、これはすべての領域に言えることですが、あるひとつの研究・ひとつの論文ですべてを解決することなんて、土台不可能なんです。

 例えば治療薬ひとつとってみても、はじめに「この薬を3人に使ってみたら効果があった」という報告がなされる。そうすると「3人に試しただけじゃ有効性はわからないじゃないか」っていう話になって、次は70人くらいに使ってみる。それで良さそうなら、今度はプラセボ群と比較する。

 いま効果を検証しているアビガンレムデシビルも、こういう過程で少しずつ吟味をしながら前進しているんです。

 「少しずつ前進している」ということは、ひとつひとつの研究では全部は解決しないということです。

 はじめに「3人に試してみたら良かったよ」という報告があった時に、「3人なんか意味ないじゃないか」と非難するようなことが時々ありますね。それはまったくナンセンスで、「3人に試す」というエピソードがあったからこそ、「もっとたくさんの人で試してみよう」「ランダム化比較試験をやってみよう」と、その先へと進んでいく「萌芽」が出てきたわけですよ。

 最初からパーフェクトな答えを出す研究なんて、できっこない。少しずつ前進して、正しい答えへと漸近していくしかないんです。そして、仮にランダム化比較試験で「この薬は効果なし」という結果が出たとしても、「3例では有効だった」と報告した方に対して「デマを撒き散らした」といった誹謗中傷をしてはいけません。それは現実的制約の中での誠実な報告であり、決して「デマ」ではありません。

 西浦先生のモデルが出てきたからこそ次の改善ができる。「報告の遅れを補正しよう」みたいに少しずつモデルが精緻になっていくわけで、最初から100%の形で出てくることはない。はじめから100%のものをつくろうとすると何年もかかりますよ。すべてが終わった後で「3年前はこうなってました」みたいに説明を受けてもしょうがないでしょう。

 いまは「ここがあかん、あそこがいけない」みたいに攻撃感情が強くなっているところがありますけど、第一波のパニックが過ぎて落ち着きを取り戻した段階で、もう少し冷静に科学的な議論を進められたらなと思っています。

 

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岩田 健太郎

いわた けんたろう

1971年、島根県生まれ。神戸大学大学院医学研究科・微生物感染症学講座感染治療学分野教授。神戸大学都市安全研究センター教授。NYで炭疽菌テロ、北京でSARS流行時の臨床を経験。日本では亀田総合病院(千葉県)で、感染症内科部長、同総合診療・感染症科部長を歴任。著書に『予防接種は「効く」のか?』『1秒もムダに生きない』(ともに光文社新書)、『「患者様」が医療を壊す』(新潮選書)、『主体性は数えられるか』(筑摩選書)など多数。


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