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岩田健太郎医師「日本で感染爆発が押さえられた要因とはなんだったのか」【緊急連載②】

藤井聡氏公開質問状への見解(第2回)

◼️いろいろな事件が感染を押さえた

 藤井先生は「3月下旬以降は、特に何の取り組みをしなくても収束する状況だった」と言いますけれど、3月下旬までに日本ではいろんなことが起きています。「4月7日に緊急事態宣言を出しました」といっても、緊急事態宣言以前と以後で世の中がドーンと変わったわけではありません。

 でも今回の新型コロナウイルス対策の場合は、緊急事態宣言というのでどんと何かが変わったわけではなくて、その前後でいろんなことが起きましたね。

 東京オリンピックが延期になったのが3月24日でした。

 小池東京都知事が「不要不急の外出を自粛しましょう」と言ったのが3月25日です。

 志村けんさんがお亡くなりになったのは3月29日です。

 西浦先生が「対策がゼロだったら40万人死亡するかもしれない」と発表されたのは4月15日です。
ぼくも4月3日に「少なくとも東京都ではロックダウンしたほうがいい」と主張しています。

 つまり、緊急事態宣言の前後でいろんなことが五月雨式に起きていたわけです。
また、今回の緊急事態宣言には罰則規定がありませんので、その効果も即座に表れるわけではありませんでした。

 皆さんも実感されているでしょうし、ぼくも兵庫県で観察してて思ったんですが、緊急事態宣言が出てから2週間くらいは、街の雰囲気はそんなに変わってなかったですよね。外に出る人も多かったし、みんなわりと通勤していたし、罰則規定がないですからお店も開いてた。

 その前後で、たとえば西浦先生が「40万人死ぬかもしれない」と言ってみたり、いろいろな人が「STAY HOME」というメッセージを出してみたり、また志村けんさんや岡江久美子さんがお亡くなりになったりといろいろなことが起こって、緊急事態宣言から2週間くらい経った時には、気が付くと外を歩いている人がほとんどいない状態、電車に乗ってもガラガラな状態が徐々につくられていったわけです。

 ですから、緊急事態宣言を出した4月7日以前と以後を直接比較して、例えば時系列解析をして、新規感染者のトレンドや切片に変化がないことを議論するのはふさわしくありません。

 緊急事態宣言の前後でもいろいろなことがなされていて、それの総体として増加率が減少したんです。

 基本的に感染症、特にコロナの場合は、感染経路を遮断すれば感染が減るし、感染経路を遮断しなければ感染は拡がります。一旦感染が拡がった状況では、感染経路を遮断する一番いい方法は「家にいる」ことなわけで、上に挙げたいろいろなことが「家にいること」を促すように働いたわけですよね。

 そこでなにもしないで普通の生活をして、経済活動をガンガン回していたら、やっぱり感染が拡がっていた可能性のほうがはるかに高い。今度は収拾がつかなくなるくらい感染者が増えて、イタリアやアメリカのようになってしまうリスクは十分にあったわけです。事実、緊急事態宣言を解除、緩和したあとも、北九州のように感染者が再び発生することもあれば、フランスのようにロックダウンのレベルを再び上げねばならなかったところもあります。

 いまでこそ「アジア人のほうが死亡率は低いんじゃないか」という議論がなされています。もちろんこれも、いまだに確認がとれていないひとつの仮説にすぎませんが、3月の下旬から4月の頭にかけては、「アジア人のほうが死ににくい」なんてことは広く言われていませんでした。それどころか「中国人のウイルスだから」とか「韓国ですごく拡がって」といういろいろな話があったので、むしろ「アジア人のほうが危ないんじゃないか」ということも言われていました。これはこれで間違った仮説の立て方ですが。現在でも、アジア人のほうが死亡リスクが低い、というのは仮説の一つに過ぎず、立証されたわけではありません。

 ですから、「Rtが1を下回ったんだからほっとけばよかったんだ」というのは、端的に言うと間違いと言わざるを得ません。抑えたものは、抑え続けなければいけないんです。

 第3回では「西浦先生だけに依存してはいけない」について語ります。(本文構成:甲斐荘秀生)

 

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岩田 健太郎

いわた けんたろう

1971年、島根県生まれ。神戸大学大学院医学研究科・微生物感染症学講座感染治療学分野教授。神戸大学都市安全研究センター教授。NYで炭疽菌テロ、北京でSARS流行時の臨床を経験。日本では亀田総合病院(千葉県)で、感染症内科部長、同総合診療・感染症科部長を歴任。著書に『予防接種は「効く」のか?』『1秒もムダに生きない』(ともに光文社新書)、『「患者様」が医療を壊す』(新潮選書)、『主体性は数えられるか』(筑摩選書)など多数。


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