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岩田健太郎医師「感染爆発を押さえた西浦博先生の『本当の貢献』とは」【緊急連載①】

藤井聡氏公開質問状への見解(第1回)

◼️科学者の役割と、その限界

2020年5月26日、緊急事態宣言が解除された新宿駅東口アルタ前(写真:つのだよしお/アフロ)

 西浦先生は、ドイツの感染データに基づく「R0 = 2.5」R0:基本再生産数。次回詳しく取り上げます)という前提に基づいて、「その場合に、こういう対策をまったくとらなければ、死亡数が42万人になりますよ」というシナリオを示されたわけですが、これは「R0 = 2.5です」とか、あるいは「日本では死人が42万人出ます」という予測をしたわけではなくて、「こういう条件下では、こうなります」と言ったに過ぎないわけです。

 ですから、その結果にならなかったのは当たり前です。「対策をまったくとらない」なんてシナリオはありえないわけですから。

 これは科学論文の世界ではよくやることで、例えばダイヤモンド・プリンセスでの感染に関しても、「対策をまったくとらなかった場合には感染者は〇〇人だっただろう」というシナリオが作られています。「それに比べて日本政府は検疫をこうやったので、こうなりました」という形で評価をするわけです。

 このように、「こういう条件下では〇〇という計算値がでました」ということを言い続けることは、科学者の責務です。

 前提条件の正確さには当然限界がありますし、数理モデルは現実に起きていることを完全に表現することはできません。ただし、仮説として何かを代入しなければ話が全然できないので、まず話の俎上に「こういう条件下ではこうなりますよ」というものを置くわけです。

 だから「条件を変えてやれば当然違う結果が起きますよ」ということを、モデルと条件と結果を、提示された我々一人ひとりが議論すればいい。前提をまったく見ないで、その結果だけを見て「NO」というのは乱暴な議論です。西浦先生は前提条件をちゃんと開示しているわけですから、少なくとも西浦先生の問題ではない。それは読み手の問題、解釈者の問題だと言うべきでしょう。

 日本には疫学における数理モデルの専門家が非常に少ないですし、厚労省も西浦先生のグループにべったりで解析・助言を頼んでいます。

 ですから西浦先生が数字を出すと、厚労省も含めて我々はつい「魔法の箱の中から数字がぼんぼん出てくる」かのようなイメージで見がちです。

 けれども本来は、その前提としている条件を含めて、解釈者もちゃんと吟味しないといけない。完全なる予測などないから、当然外れることもあるわけですよ。だから「外れる」という前提でプランを立てればいいだけの話であって、外れたことをもって西浦先生を批判するのは数理モデルというものに対する、また科学者の役割に対する期待過剰だと思います。

 

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岩田 健太郎

いわた けんたろう

1971年、島根県生まれ。神戸大学大学院医学研究科・微生物感染症学講座感染治療学分野教授。神戸大学都市安全研究センター教授。NYで炭疽菌テロ、北京でSARS流行時の臨床を経験。日本では亀田総合病院(千葉県)で、感染症内科部長、同総合診療・感染症科部長を歴任。著書に『予防接種は「効く」のか?』『1秒もムダに生きない』(ともに光文社新書)、『「患者様」が医療を壊す』(新潮選書)、『主体性は数えられるか』(筑摩選書)など多数。


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