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【白熱取調室】唖然ボー然大爆笑!「拳銃」めぐり恫喝•手打ち•ダマし合い! 元ヤクザvsデカ、真剣!司法取引

【塀の中はワンダーランドVol.8】それは何の真似だ。チョキか?


 元ヤクザでクリスチャン、今建設現場の「墨出し職人」さかはらじんが描く懲役合計21年2カ月の《生き直し》人生録。カタギに戻り10年あまり、罪の代償としての罰を受けてもなお、世間の差別・辛酸ももちろん舐め、信仰で回心した思いを最新刊著作『塀の中はワンダーランド』で著しました前回はカード詐欺、クスリ、拳銃をめぐり司法取引の駆け引きが展開された今回は、元ヤクザが「減刑」を、刑事は自らの「出世」をかけて利害一致の折り合いをさぐるダマし合い化かし合い。そして、ついに・・・手打ち! 白熱取調室いざ除幕です‼️


◼️それは何の真似だ。チョキか?

 ボクは気を取り直すと、今にも噛みつきそうな顔で睨みつけている係長を、挑戦的な顔で睨み返した。

 そんなボクの態度に係長が声を荒げた。

 「サカハラ、どうしても(ション便を)出す気はないようだな。そうやっていつまでもゴネたって同じことだ」

 ボクは無言のまま椅子に座ると、腕組みをして取調室の天井を仰いだ。目の前にいる係長に、どうやって話を切り出すか、そのタイミングを計っていたのだ。

 すると、ボクがだんまりを決め込んだと思ったのか、

 「おい! サカハラ、強情張るんじゃない! とっととション便出せぇ!」係長が、眉毛を吊り上げて咆えた。

 その声に単細胞のボクは、頭の血管を即座にピクピクと反応させて、係長を睨み返していた。アッと思ったが、遅かった。これでは笑顔をつくって、話を切り出すどころの騒ぎではなかった。逆に状況の悪化を招いてしまっただけである。

 「係長、わかった。もうてこずらせねぇ。その代わり、ちょっとオレの話を聞いてくれよ」ボクは顔を引きつらせた。

 ボクが突然豹変したことに、係長は不審げに左の眉毛をググッと吊り上げた。

 「何だ、話とは……。やっと出す気になったのか?」

 「係長、“水心あれば魚心”で、内密に係長と二人で話がしたいんだ。だからそこに立っているデカさんたちに、ちょっと席を外してもらってほしいんだ」

 ボクの声色は先ほどとは打って代わって穏やかになっていた。

 入口に立っている捜査員たちに係長が顎をしゃくると、入口から捜査員たちの姿が消えた。

 「何の話だ」

 「オレは、カードは認める」

 「当たり前だ」

 「しかし、ション便を出す訳にはちょいといかねぇんだ、ぶっちゃけ、微妙なんだ」

 「やっぱり、やってたのか?」

 「ああ、やってた。でもよう、オレには不細工だが、気のいい嫁さんと可愛いガキがいるんだ。だから、これを出すから、ション便と相殺してくれねえか?」

 そう言うと、ボクは右手の人指し指と親指を広げてみせた。

 係長はボクの指にチラッと視線を走らせると、

 「おい、サカハラ……それは何の真似だ。チョキか? オレはお前とジャンケンやって遊んでいる暇はないんだ。それでなくてもお前には時間を喰っているんだ」

 ボクは係長が本当にチョキだと思っていると思い、「係長、これはチョキじゃねえ。拳銃だよ」と言って、開いたチョキの指を係長に向けると、「パン」と声を出して撃つ真似をした。

 すると係長は「サカハラ、お前……」と眼光を鋭く光らせ、吊り上がっていた眉毛を一段と吊つり上げた。

 ボクは針の先に魚がかかったような手応えを感じた。

 「モノはそこら辺に出回っているトカレフとは違うよ。回転式の三八口径のホンチャンだよ。名前はコンバットマグナムだ。アメリカ製だよ」

 するとボクを凝視していた係長の目がさらに険しくなって、「おい、サカハラ、お前、今、本当にチャカ持っているのか?」と聞いてきた。ボクは最後のとどめを刺すつもりで、その一撃を放った。

 「この話、与太(デタラメ)じゃねえよ。どうしても“首をつけろ”と言うなら、その首もつけるけど……。今日中に用意できる」

 係長が取引する手応えを感じたボクは、ヤクザ映画の見せ場の、哀愁を背負ってスポットライトを浴びている主役を気取った。

 暴力担当警察官としては、どんな手段を使ってでも、拳銃を押収すれば成績が上がり、早い出世を望むこともできる。さらに、署の予算もぐんと上がるほどの手柄にもなるのである。その威力を発揮する拳銃は、デカたちにとって夢の押収物であり、咽から手が出るほどほしい代物なのだ。

 ボクが係長の出方を窺っていると、係長の眉毛がピクピクと動いた。

 「よし、分かった! だったらサカハラ、お前の首つきで、ション便と一緒に拳銃も出してもらおうか」

 その言葉を聞いた途端、ボクはしがみついていた獄の壁からズリ落ちそうになった。自分の耳が信じられなかった。

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 2020年5月27日『塀の中のワンダーランド』
全国書店にて発売!

 新規連載がはじまりました!《元》ヤクザでキリスト教徒《現》建設現場の「墨出し職人」さかはらじんの《生き直し》人生録。「セーラー服と機関銃」ではありません!「塀の中の懲りない面々」ではありません!!「塀の中」滞在時間としては人生の約3分の1。ハンパなく、スケールが大きいかもしれません。

 絶望もがむしゃらに突き抜けた時、見えた希望の光!

 「ヤクザとキリスト〜塀の中はワンダーランド〜」です。

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さかはら じん

さかはら じん

1954年生まれ(本名:坂原仁基)、魚座・O型。埼玉県本庄市生まれの東京育ち。幼年 期に母を亡くし、兄と二人の生活で極度の貧困のため小学校1カ月で中退。8歳で父親に 引き取られるも、10歳で継母と決裂。素行の悪さから教護院へ。17歳で傷害・窃盗事件を 起こし横浜・練馬鑑別所。20歳で渡米。ニューヨークのステーキハウスで修行。帰国後、 22歳で覚せい剤所持で逮捕。23歳で父親への積年の恨みから殺害を実行するが、失敗。 銃刀法、覚せい剤使用で中野・府中刑務所でデビューを飾る。28歳出所後、再び覚せい剤 使用で府中刑務所に逆戻り。29歳、本格的にヤクザ道へ突入。以後、府中・新潟・帯広・神戸・ 札幌刑務所の常連として累計20年の「監獄」暮らし。人生54年目、獄中で自分の人生と向き合う不思議な啓示を受け、出所後、キリスト教の教えと出逢う。回心なのか、自分の生き方を悔い改める体験を受ける。現在、ヤクザな生き方を離れ、建築現場の墨出し職人として働く。人は非常事態に弱い。でもボクはその非常事態の中で生き抜いてきた。

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塀の中はワンダーランド
  • さかはらじん
  • 2020.05.27