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酒井高徳がピッチで見せた闘う姿勢。歩む新たな「レジェンド」への道

ハンブルガーSVを生まれ変わらせた男

 海外での取材にある、マッチレポートには記すことのない「サッカーの姿」。

 3月、ドイツ・ブンデスに始まり、プレミアリーグ、そして日本代表の取材でアブダビへ2週間を超える海外取材に向かったサッカーライター・寺野典子氏による「海外取材にうつる風景」。

 第一回はドイツ後編。ドルトムント・香川真司、シャルケ04・内田篤人、ケルン・大迫勇也、ハンブルガーSV・酒井高徳……。日本を代表するプレイヤーがドイツには集っている。

前編はこちら

歌いつがれる想い

 ミュンヘン近郊の小さな町インゴルシュタット。2万人に満たない小さなスタジアムで残留争い真っ只中のチームが、7位FCケルンを圧倒する戦いを見せた。3月11日ブンデスリーガ、インゴルシュタット。2-2ではあったが、選手たちの健闘にファンは酔っていた。

 スタジアムから中央駅までを結ぶシャトルバスのなかには、はるばる駆け付けたケルンサポーターたちが詰め込まれ、ケルンサポーター歌声が響いていた。しかし、それはよくスタジアムで耳にする景気の良い歌ではなく、ミディアム調の哀愁漂うナンバーをふたりの男性がずっと歌い続けている。苦戦の続くチームが下位相手に快勝するのではないかという期待とともにやってきたはずなのに、お粗末な結果に意気消沈しているのだろう。心に歌が染みる。

 敗戦後のサポーターがこれほど静かなのも実は珍しい。勝利できなかったストレスをぶつけるように、やけくそ気味に大声で景気の良い歌を歌うことのほうが多い。景気が良い歌というのは、言いか換えれば「うるさい」ということ。ビールで満たされた大きな身体を揺らし歌う歌が、迷惑行為となりかねないケースが一般的なのだ。だから、ケルンサポーターの落ち込みぶりに同情していたそのときだった。

 渋滞で動かなかったバスが動き出し、駅に近づくことがわかると、ミディアム調の歌に声を合わせる人が増え、その曲調が徐々にアップテンポへと変わっていく。そうして、次に歌われたのはあいかわらずの景気の良い歌だった。ジャンプしたり、窓を叩いたり、いつもの賑やか(ちょっと迷惑)な状態へと一変。

 あれほど静かだった人たちが、ゲラゲラ笑いだし、ドイツ国内でもラテン系だと言われるケルンの人たち特有の明るさを爆発させていた。

 ビールと同様にドイツのスタジアムには歌が欠かせない。仲間が歌のもとで集う。ひどく原始的ではあるが、きっと100年前から変わらない契りの行為なのだ。歌うことで気持ちをひとつにし、選手を鼓舞する。ときには敵をあざ笑う歌もある。

 たとえば、「シャイセ~ヌンヒァ~」と繰り返す歌は、どのチームのサポーターでも歌える。シャルケのサポーター以外は。シャイセとは英語でいうところの「FUCK」に近い言葉だ。ヌンヒァは04。シャルケサポが歌う「シャルケ~ヌンヒァ~」の替え歌である。

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寺野 典子

てらの のりこ

1965年兵庫県生まれ。ライター・編集者。音楽誌や一般誌などで仕事をしたのち、92年からJリーグ、日本代表を取材。「Number」「サッカーダイジェスト」など多くの雑誌に寄稿する。著作「未来は僕らの手のなか」「未完成 ジュビロ磐田の戦い」「楽しむことは楽じゃない」ほか。日本を代表するサッカー選手たち(中村俊輔、内田篤人、長友佑都ら)のインタビュー集「突破論。」のほか中村俊輔選手や長友佑都選手の書籍の構成なども務める。


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