韓国人シンガーKが日本の伝統を旅する<br />「竹のある生活は日本の原風景」 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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韓国人シンガーKが日本の伝統を旅する
「竹のある生活は日本の原風景」

第11回 京銘竹 竹雑貨「TAKENOKO」店長・田中めぐみさん、横山竹材店4代目・横山裕樹さん

人間の手でしかできない
加工作業

 

横山 それでは、加工場を見に行きましょう。まずは火あぶり加工場です。
K すごくいい匂いがしていたんですが、この火あぶり加工の匂いだったんですね。コンロで竹を焼くことで脂を抜くというお話でしたが、汗だくの作業ですね。
横山 竹の子を茹でた時と同じ匂いがします。竹を触ると熱いですよ。火であぶることで、だんだん色が抜けていき、その後、天日で2週間ほど干します。
K なぜ脂抜きが必要なんですか?
横山 焼かずに青竹をそのまま使用すると、どんどん腐って、茶色に変色するんです。だから、脂抜きをして乾燥させる。美しさを保つための加工なんです。
K 焼きながら、竹を布で拭いているのはなぜですか?
横山 拭き遅れといって、熱いからといって、拭くことが遅くなると染みになるんです。だから、熱くてもやりきらなくちゃいけない。この技法も京都にしかなくて、このプロセスこそが、京銘竹の神髄、命なんです。次の工程に行きましょう。天日に干すことで竹の製品が出来上がります。
K 白い竹ですね。
横山 その時点では、自然で育ったそのままなので、まっすぐじゃないんですよ。お陽さんに向かって伸びて行くので、いろんな方向に曲がっているんです。それをもう一度火であぶりながら、まっすぐに矯正します。
K 火であぶった竹を機械にさして、力をかけて、しならせながら矯正しているんですね。

 

横山 この技術はまさに職人芸です。
K ベテラン職人の方が作業をされています。
職人 一節ずつ直していきます。そうじゃないと建築材料にはならないので。
横山 20年以上されています。今まで何百万本とやってこられた方です。
K 気をつけられていることはありますか?
 

 

職人 竹にもそれぞれ、柔らかいヤツと堅いヤツがあるんですよ。だから、下手に力を入れすぎるとボキっと折れてしまうこともあります。だから、竹を見ながら、適した力加減で直します。人間の根性といっしょですよ(笑)。
K すべての作業が手作業で、機械を使えないというのは、こういうところなんですね。一本一本竹は全部違うから。

様々な顔を持っていることが
竹の一番の魅力

 

K このベンチは竹を編んで作られたそうですが、想像以上に固いですね。座り心地がしっかりしている。
横山 皆さん、竹の弾力性には、驚かれますね。雪国へ行くと雪の積もった杉の枝は折れています。しかし、竹は雪の重さで地面につくくらい頭が垂れるんですけど、折れることはありません。だから、雪が解けるとまた元の形に戻ります。他の木にはない弾力性が竹にあるんですよ。
K 韓国でも竹は生活にかかせない材料で、最近では竹の中で熟成された塩をつかった歯磨き粉が人気ですし、僕も少年時代は剣道をやっていたので、竹刀など、竹は身近な素材でした。伝統工芸品を作る人たちを取材するうちに“竹”への興味も自然と高まっていったんです。すると実にいろんなところで使われている竹に気づきました。居酒屋さんの壁だとか、衝立(ついたて)だとか……。
横山 この家業を継いでから、竹ってなんだろうと僕はずっと考えていて、今のKさんのお話のなかに、僕の答えがあります。普通の人たちは、みなさん、竹が使われていても、あまり意識しないんです。でも、竹だと思わずとも、竹がお店の内装に使われた居酒屋へ行けば、「和風テイストだな」と感じているはず。だから竹というのは、日本の風景のひとつだと僕は思っているんですよ。

 

K 面白いですね。先ほど、冬の雪が積もったときはしなやかに曲がって、春になったら戻るというお話がありましたが、それも日本の風景のひとつですね。そういう柔軟性が竹の一番の魅力だと思います。
 人間の一番近いところで、呼吸をしているというか。色を塗ることでガラッと印象が変わったり。カメレオンが色を変えるような柔軟性が竹にはあるのだと思います。先ほどの煤竹も、150年モノは150歳ということですよね。最初、1歳のときは、あんな感じではなかったはず。それが暮らしのなかで、時間が経ち、150歳になった。建築素材のひとつでありながら、人間といっしょに育つ。変化がある。とても柔軟性のある植物、生き物が竹なんですね。本当にいろんな顏を持っている。

 

横山 おっしゃる通りで、僕はまだ、そこまで感じられないんですけど、3代目の父はよく言いますよ。「竹が使われることによって、建築物がまるくなる」と。木だけで作ると重厚感が強すぎて、入りがたいような雰囲気になるけれど、竹を使うことで日本建築も少し雰囲気がまるくなる。だから、カメレオンですね。いろんなところで、いろんな見せられ方をされて、いろんな感じられ方をする。それは僕もそう感じますね。
K 最高のわき役でもあるんですね。

 

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寺野 典子

てらの のりこ

1965年兵庫県生まれ。ライター・編集者。音楽誌や一般誌などで仕事をしたのち、92年からJリーグ、日本代表を取材。「Number」「サッカーダイジェスト」など多くの雑誌に寄稿する。著作「未来は僕らの手のなか」「未完成 ジュビロ磐田の戦い」「楽しむことは楽じゃない」ほか。日本を代表するサッカー選手たち(中村俊輔、内田篤人、長友佑都ら)のインタビュー集「突破論。」のほか中村俊輔選手や長友佑都選手の書籍の構成なども務める。


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