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コロナ危機での各国政府の巨額財政負担は大丈夫なのか?

アメリカ310.8兆円、日本78.7兆円…MMTは正しいのか!?

◼️各国の大型財政支援はMMTの正しさの証明か?

 私は不思議に思った。どこの国でも財政難に悩まされているのに、どこの国も今回のコロナ危機による経済収縮に対して、このような大盤振る舞いを比較的すみやかに決定したことが。

 そんなに財政赤字を増やしてもいいのならば、国債をいくらでも発行できるのだとしたら、つまり国民の生活のために大判振る舞いができるのならば、なんで今までしなかったのか? どの国でも、雇用が収縮し、階層は固定化し、格差は広がり、機会の平等の保証の実現は遠くなるばかりなのに。

 こんなに財政出動ができるということは、ひょっとしたら、中野剛志が『奇跡の経済教室 基礎知識編』『奇跡の経済教室 戦略編』(ともにKKベストセラーズ、2019)で紹介していたMMT(Modern Money Theory:現代貨幣理論)は正しいのかもしれない。

 MMTによると、通貨は国家の法で定められたものである。政府はその通貨の単位で計算された納税義務を課す。だから国民は通貨に額面通りの価値があると認める。で、その通貨を民間取引の支払いや商品の売買や貯蓄の手段として利用する。こうして通貨が流通する。つまり、「通貨の価値を保証するのは、政府の徴税権力である」(『奇跡の経済教室 戦略編』332)。

 その通貨は、あらかじめ政府が発行しておく。政府は徴税する前に通貨を国民が事前に保有している状態を作っておく。つまり、「政府は、支出のための財源として、事前に税を徴収する必要はない」(44)し、「本当は、国債を発行して財源を調達する必要すらない」(47)。

 そうなのか!! だから、心おきなくアメリカは財政出動をガンガンしているのか? 政府は国民に課税する必要はなく、いくらでも通貨発行できるのだけれども、いくらでも通貨を発行すると、景気が良くなるのはいいが、良くなり過ぎてインフレになるから、景気調節のために減税したり増税したりするのか?「租税は、実は、物価を調整する手段」(52)なのか?

 ほんとは無税国家を作れるらしい。リバータリアンのように、国家からの収奪として課税を憎まなくていいらしい。

 だから、MMT発祥の地のアメリカでは、気軽にガンガンと財政出動をしているのか? ハイパーインフレにならないように、適当に通貨量を調節しつつ、いくらでもドルを印刷すればいいとわかっているらしい。

 MMTによると、日本国債の保有者のほとんどは、日本国民か日本の機関投資家であり、外国勢が日本国債を売りに出したとしても問題はない。2019年現在での日本国債(財投債を含む・国庫短期証券は除く)の1037.4兆円のうち78.6兆円の保有者は外国人か外国機関であり、78.6兆円は日本の税収の軽く2倍はあるとしても、外国人や外国機関がいっせいに日本国債を売却しても、日本政府は、円をガンガンと印刷して対処すればそれでいい。

 それにしても、景気調節のために課税があるというのは理解できないでもないが、なぜ必要もないのに国債を発行するのか。それは、為政者や為政者を補佐する経済学者が「通貨の価値を保証するのは、政府の徴税権力である」ということや、「政府は、支出のための財源として、事前に税を徴収する必要はない」ということや、「本当は、国債を発行して財源を調達する必要すらない」ということや、「租税は、実は、物価を調整する手段」ということを知らないかららしい。

 しかし、どうもそうではないらしい。為政者も経済学者も知っているに違いない。でなければ、各国とも、あのような国家財政破綻を導きかねない大判振る舞いができるはずはない。最近になって、MMTに目覚め、国債など発行しなくても政府は自分でファイナンスできるとわかったからこそ、アメリカは巨額の財政出動を決めたのだろう。

 そうでなければ、あれだけの財政出動は、必ず国家財政赤字膨張となる。そうなると、その赤字を解消するために、政府は預金封鎖でもして、その間に貨幣価値の切り下げして、新しい通貨を発行し、債務を圧縮しなければいけなくなるかもしれない。

 しかし、もう大丈夫。MMTを知った以上は、もうそんなややこしいことをしなくていい。通貨はいくらでも発行できる。ガンガン通貨を発行して、故意にハイパーインフレにして、貨幣価値を暴落させ債務を10分の1とか100分の1に圧縮させることだって、しようと思えばできる。

 

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藤森 かよこ

ふじもり かよこ

1953年愛知県名古屋市生まれ。南山大学大学院文学研究科英米文学専攻博士課程満期退学。福山市立大学名誉教授で元桃山学院大学教授。元祖リバータリアン(超個人主義的自由主義)である、アメリカの国民的作家であり思想家のアイン・ランド研究の第一人者。アイン・ランドの大ベストセラー『水源』、『利己主義という気概』を翻訳刊行した。物事や現象の本質、または人間性の本質を鋭く突き、「孤独な人間がそれでも生きていくこと」への愛にあふれた直言が人気を呼んでいる。

 

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