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関門海峡を抑えろ! 古代北九州勢力の「積極的にヤマトを締め上げる策」

シリーズ「ヤマト建国は地形で解ける」⑥

関門海峡の日本全体における地形的役割

 日本を見渡せば、因縁めいた地形は各所に散らばっているが、関門海峡は、もっとも特徴的な場所だ。ちなみに、「関門」は、「関所のようだったから」つけられた名ではない。「下関(しものせき)」と「門司(もじ)」の間に横たわる海峡だから、「関門」となった。
 ただし、昔は馬関(ばかん)海峡と呼ばれ、さらに古くは「赤間関(あかまのせき)」と呼ばれていた。
 物部系の赤間氏が支配していた場所で、「関」と名がつくところから、ここが交通の要衝であり、しかも、通行を制限、管理されていたことが分かる。
 関門海峡は東は満珠島(まんじゅしま)のあたり、西は馬島(うましま)、六連島(むつれじま)までの約二五キロに渡る水域だ。

写真を拡大 関門海峡概略図

 周防灘(すおうなだ)(内海)と響ひびき灘(外海)を結ぶ海峡で、内と外両方に「灘(航海の難所)」とあるのは、潮流が早いためだ。
 関門海峡でもっとも幅の狭い場所は六〇〇メートル。潮の満ち引きで、最大約九・四ノット(一ノットは時速約一・八キロ。自転車並みのスピードで潮が流れることになる)の流れが生まれるという、海の難所でもある。
 源平合戦最後の壇ノ浦の戦いは、まさにここでくり広げられた。潮の流れに乗った源義経が勝利したことは、よく知られている。
 平家はここから九州に逃走すれば助かっただろうに、滅亡の道を選んだのは、交易によって富を蓄えようとした政権ゆえに、関門海峡を失えば、生きていけないことを知っていたからだろう。
 幕末の文久三年(一八六三)、長州藩は攘夷を実行するために、馬関を通過する外国船に砲撃を加えた。
 翌年、イギリス、フランス、アメリカ、オランダの連合艦隊が長州藩の砲台を砲撃し、上陸した(下関戦争)。
 このあとイギリスは長州藩に関門海峡の首根っこに当たる彦島の借款を要求したが、高杉晋作が断固拒否し、事なきを得た。この時彦島を奪われていたら、その後の日本の流通はイギリスに支配されていたかもしれない。
 アングロサクソンの戦略眼、地政学的な直感は、恐ろしい。
 それほど、関門海峡は日本全体に、大きな影響を及ぼす場所で、しかも因果な地形なのである。
 潮の流れに逆らって進むのはまず不可能で、船の往き来を監視し海峡を管理するのは楽だっただろう。
 ほぼ一方通行であり、潮待ちをする場所も、限られていたにちがいない。
 忌宮(いみのみや)神社の沖合の満珠島、干珠(かんじゅ)島が関門海峡の入口と目されているのは、おそらくこの島の周辺で潮待ちしたのだろうし、事実、源義経の船団は、このあたりに最初集結していた。 
 古代最大の豪族・物部氏が関門海峡の両岸を支配していたのは、ここを手に入れた者が、日本の流通と軍事を差配できるからだ。
 本州島と九州島を隔てる海の幅が、たった六〇〇メートルだったことが大きな意味を持っていたのであり、だからこそ、関門海峡の奪いあいが起こり、ここを支配する者が現れたのである。

 シリーズ「ヤマト建国は地形で解ける」⑦に続く。

『地形で読み解く古代史』より構成】

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関 裕二

せき ゆうじ

 



1959年生まれ。歴史作家。仏教美術に魅了され、奈良に通いつめたことをきっかけに、日本古代史を研究。以後古代をテーマに意欲的な執筆活動を続けている。著書に『古代史謎解き紀行』シリーズ(新潮文庫)、『なぜ日本と朝鮮半島は仲が悪いのか』(PHP研究所)、『東大寺の暗号』(講談社+α文庫)、『新史論/書き替えられた古代史』 シリーズ(小学館新書)、 『天皇諡号が語る 古代史の真相』(祥伝社新書)、『台与の正体: 邪馬台国・卑弥呼の後継女王』『アメノヒボコ、謎の真相』(いずれも、河出書房新社)、異端の古代史シリーズ『古代神道と神社 天皇家の謎』『卑弥呼 封印された女王の鏡』『聖徳太子は誰に殺された』『捏造された神話 藤原氏の陰謀』『もうひとつの日本史 闇の修験道』『持統天皇 血塗られた皇祖神』『蘇我氏の正義 真説・大化の改新』(いずれも小社刊)など多数。新刊『神社が語る関東古代氏族』(祥伝社新書)



 


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