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ゴリラの同性愛の実態、人間との共通点は?

オス6匹とメス1匹という集団で起きた男色

ゴリラの人間の「男色」その共通点

 ここで、ゴリラと人間の同性愛を比較してみると、いくつか共通点があるようです。わたしが勝手に人類史のなかで一番男色が盛んだったと思っている、古代ギリシャと戦国日本を例にあげていきましょう。

 まず、両者とも女性がいない、完全に男だけの世界です。

 第二に、その構成員は、基本的に皆対等と見なされていました。古代ギリシャの男色は、武装した自由市民同士のものでした。

 日本の武士も、その草創期の鎌倉時代の記録には、くどいくらい「対揚」という、現在の対等と同じ意味を持つ言葉が出てきます。「俺とお前は対揚だろうが!」といった使われ方です。
 戦国時代になっても、侍たちは、連判状を書くときは、署名を円状に連ねて、上下関係がないことを強調しました。

 ゴリラの群れもフラットな構造を持っています。争いはあっても、勝ち負けは決して明らかにせず、最後は必ず、お互い見つめ合って和解します。
 また、山極教授は、ゴリラの同性愛の萌芽のひとつに、遊びがあるのではないかと考えておられます。

 ゴリラは遊び好きな生き物で、二時間も三時間も、追いかけっこやレスリングをして、たわむれ続けるそうです。また、オスメスで差があって、オスの方が頻度が高く、時間も長い。

 遊びはお互いの立場に立つという共感力がないと出来ません。また、力の強いものが、力の弱いものに、わざとやられてやったり、追いかけられたりするという、役割の転換なしでは成り立たず、また面白くないものです。

 ボノボやチンパンジーといったサルも遊ぶのですが、例えば、ニホンザルでは遊びと見られる行動が、せいぜい十秒ほどしか続かないのに対し、ゴリラは休憩も入れつつ、一時間以上遊び続けることが出来ます。これは、サルの群れは、ゴリラのそれと違って、序列がはっきりしていることに原因があるようです。

 ヒエラルキーの強固な社会では、役割の転換や逆転を起こす遊びは、序列への挑戦になるので、敬遠されるのですね。

 そして、セックスもまた、遊びと同じく役割の転換や逆転を呼び起こすものです。性愛のベッドの上では、強いものが弱くなったり、弱いものが強くなったりします。また、ゴリラの同性愛では、セックスに誘う仕草と遊びに誘う仕草はまったく同じものです。年少者の方から意味ありげに相手の顔を下からのぞき込むのですね。

 こう見ていくと、戦国日本や、古代ギリシャといった、対等の闘う男たちからなる集団と、ゴリラのオスたちの群れで起きた男色は、同じ根に同じ花を咲かせたものであり、ひょっとしたらこのゴリラの群れの例こそが、人間の男色の起源なのかもしれません。

 山極教授は、ゴリラの群れで起きた同性愛について、「オスたちがお互いに惹かれあい、共存することに大きな役割を果たしていました」と書いておられます。これは、まさに戦国日本や、古代ギリシャで栄えた男色についても当てはまる言葉でしょう。
 とはいえ、同性愛についてだけ、共同体における機能や必然性を求めようとするのも、危険な行為なのかもしれません。異性愛も別に明確な理由があってやることではないですものね。

 彼らは、好きで愛するにたる対象を見つけたから、自然に寄り添った、それだけのことなのです。
 

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黒澤 はゆま

くろさわ はゆま

1979年、宮崎生まれ。大阪在住。システムエンジニアの仕事のかたわら、小説教室「玄月の窟」で修業。エージェントに才能を見出され、2013年に歴史小説家としてデビュー。



著作に『劉邦の宦官』(双葉社)、『九度山秘録: 信玄、昌幸、そして稚児』(河出書房新社)。現在、webマガジンcakesで男色がテーマの「なぜ闘う男は少年が好きなのか?」、ウートピにて女性をテーマにした歴史コラムを連載中。



愛するものはお酒と路地の猫。


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