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西欧から嫌われ、国民から愛される―フィリピン大統領ロドリゴ・ドゥテルテ

インタビュー/『アメリカに喧嘩を売る国 フィリピン大統領ロドリゴ・ドゥテルテの政治手腕』 著者・古谷経衡

Q5 ドゥテルテは日本のメディアのなかでは「フィリピンのトランプ」と称されることが多いのですが、古谷さんはその呼称は間違っているとおっしゃっています。二人の違いはどこにあるとお思いですか?

古谷:本書でも縷々取り上げましたけど、二人の「自宅」をみれば一目瞭然ですよ(笑)。家を見ればその人の人格が分かると言いますが、大富豪・トランプの大邸宅と質素で超庶民的な造りのドゥテルテの自宅がはっきりと二人の違いを示しています。ドゥテルテのお父さんは弁護士で州知事、お母さんは学校の先生です。フィリピンのなかでは上流階級に属するので彼の実家は立派な建物です。でも、トランプの豪邸と比較できるようなものではありません。

 それはともかく、なによりこの二人は政治家実績が違いますからね。ドゥテルテは1986年にダバオの副市長になり、その後、同じダバオで九選近く市長職を勤めてきた経験と実力を併せ持った政治家です。一方のトランプは政治家としての実績はゼロですからね。そもそも比較すること自体おかしいのです。

 それから、国民からの支持も違います。ドゥテルテは2016年の大統領選挙で2位のロハスに700万票の差をつけて圧勝しています。トランプは一般投票でヒラリーに200万票以上負けている。現在でも就任時の支持率は40%ちょっとで、歴代の大統領のなかでも最悪の状況からスタートしています。

 このように何から何まで二人は違っているわけです。今は「韓国のトランプ」と言われる人も出てきているそうですね(笑)。それぞれその国固有の事情があるわけですから、メディアも「〇〇のトランプ」という言い方は、いい加減やめたほうがいいのではないでしょうか。

 

Q6 日本の近隣諸国の中でも一番戦争被害をこうむったフィリピンですが、中国や韓国と違い、今では親日的なのが不思議な感じがします。そうなった一番の要因は何だと思われますか?

古谷:マルコス政権時代には、日本とフィリピンは反共同士ということもあって両国の関係が発展したんです。また、その間にルバング島で小野田寛郎さんが発見されるなどのエポックな出来事もありました。それで少しずつ融和的になっていった。それから、フィリピンはカトリック教国です。そのカトリックの「赦しの思想」といったものが根底にあるのかなとも思います。

 ただ、一番大きいと思うのは、戦争中にフィリピンは日本に「やり返し」ていることです。フィリピンは75余万の日本軍相手に戦って(―もちろんアメリカ軍と一緒に戦ったわけですが)日本軍を追い出したわけですよ。フィリピン側の被害もすごかったけれど、とにかくフィリピン人が「独力でフィリピンを取り返した」んです。

 中国はやられっぱなしで終戦していますね。蒋介石は援蒋ルートで米英ソから援助を受けておきながら、最後まで日本軍に対し大反攻できていませんね。また、韓国はどちらかというと日本と一緒に戦っていた側ですから、こちらも一度もやり返していない。フィリピンは、一度は日本軍にやられているけれど、「やり返して勝っている」というのが人々の気持ちの根底にある。それがあるから「赦そう」というふうになれるのかもしません。フィリピンこそ真の戦勝国なのです。もちろん、その他の要因として、さまざまな民間交流とかODAのこととかいろいろあると思うんですが、根本的には自分たちの力で「日本に勝っている」という気持ちが、大きく作用していると思いますね。自力で勝った国と、勝てなかった国のコンプレックスは、人々の精神の根底に強い影響を残していると思います。

 

Q7 1992年のフィリピンからの米軍の撤退は、沖縄の基地問題をかかえる日本でも大いに参考になる出来事だと思うのですが、これについてはどうお考えですか?

古谷:戦前・戦後の一時期、クラークフィールドは極東最大の米軍基地だったんですが、ご存じのように1992年にそこから米軍が出ていきました。その跡地が今ではクラーク経済特区になっていて、カジノ、病院、ショッピングモールなどの施設がたくさん造られています。

 でも、すべてがハッピーエンドに行われたのか、というとそういうわけでもありません。街には相変わらず娼婦がいるわけですから。彼女らのお相手が米軍兵から外国の観光客に変わっただけであって、格差の構造は以前と変わっていないんですね。そこは非常に大きな問題だとは思うんですが、なにせクラークフィールドまでマニラの中心部から鉄道が繋がっていないです。だから、ここはまだ建設途中の街といえるかもしれません。

 ただ、僕はクラークフィールドを見て、沖縄だったらもっとうまくやれるんじゃないかとは思いました。沖縄には娼婦の街はないですからね。フィリピンに出来てなんで日本に出来ないのか、とはいつも思いますよ。

 失礼ない言い方になりますが、経済的に貧しく、国土も小さくて、それほど軍事力もない国が、今から25年も前に「アメリカは出て行ってくれ」と言ったんですよ。だったら日本にだって出来るでしょう。いや、「日本であればもっと余裕で出来るでしょう」と、単純にそう思います。フィリピンは小国ですが、はるかに日本よりも対米自立している。それは瞠目に値するでしょう。

 

それでは最後に、読者に向けてひとことメッセージをお願いします。

古谷:「近くて遠い国」という言い方がありますね。昔は韓国や中国に対してそんな言い方をしていましたが、今はフィリピンのことを指すのに適当ではないか、と思います。フィリピンと日本は、歴史的にもいろいろと関係し合ってきた。日米戦争でも日比間ですさまじい戦闘が行われた。そんな関係の深い国なのだから、今のように簡単に素通りさせてはいけないと思います。

 一言で言えば、僕は、これからはフィリピンの時代だと思います。マニラだったら空路を使えば日本から約5時間足らずで行けますからね。「アジアの盲点・フィリピン」を埋めていくことが、日本にとって今、いちばん必要なことなんじゃないかとつくづく思います。

 もう、みんな、「トランプ」は飽きたでしょう。早いですけど(笑)。「トランプが~、トランプが~」だから何なんだと僕は言いたいわけです。「アメリカが風邪を引けば日本は肺炎になる」。かつての日米経済関係の比喩ですが、もうそんな単純な時代ではない。日本はアジアの国です。隣国のフィリピンをいつまでも「アジアの盲点」のままにしてはいけないと思うんです。この本を読んでもっと隣国フィリピンのことを、日本とフィリピンのことを、よく知って頂ければ、と思います。

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古谷 経衡

ふるや つねひら

評論家、著述家。1982年北海道札幌市生まれ。立命館大学文学部史学科卒。インターネットと「保守」、メディア問題、アニメ評論など多岐にわたって評論、執筆活動を行っている。主な著作に、『知られざる台湾の「反韓」』(PHP研究所)、『もう、無韓心でいい』(ワック)、『反日メディアの正体』『欲望のすすめ』(小社)など。

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  • 2017.01.26