『本の雑誌』と『ダ・ヴィンチ』と『よむ』【新保信長】 連載「体験的雑誌クロニクル」24冊目
新保信長「体験的雑誌クロニクル」24冊目
そんな「本の情報誌」のジャンルに、ある日いきなり大資本が参入してきた。リクルートから創刊された『ダ・ヴィンチ』である。創刊号(1994年5月号)の表紙は本木雅弘。キャッチコピーは「まったく新しい本の情報マガジン」だった。1968年創刊の『就職ジャーナル』に始まり、76年『週刊住宅情報』、80年『とらばーゆ』、82年『フロム・エー』、84年『カーセンサー』『エイビーロード』、90年『じゃらん』『ケイコとマナブ』、91年『ガテン』、93年『ゼクシィ』と、「読む」より「使う」情報誌を発行してきたリクルートが、初めて手がける一般読者に読ませるための雑誌である。
タレントを使った表紙はもとより、有名作家のインタビューも多数。誌面の派手さ=お金かかってる感じは『本の雑誌』と段違い。「ジャンル別出版社推薦本」のコーナーは、いわゆるタイアップ記事で鼻白むが、「今月の装丁大賞・腰巻き大賞」は好企画だったし、「シドニィ・シェルダンはいったい誰が読んでいるのか?」(創刊号)、「タレント本栄枯盛衰物語」(2号)といった記事の切り口もいい。別冊宝島345『雑誌狂時代!』掲載の初代編集長・長薗安浩氏の証言によれば、創刊前の悲観的予想を覆し、早々に30万部を達成したという。

とはいえ、間口が広い分、マニアックさに欠けるのは否めない。『本の雑誌』が『タモリ倶楽部』なら『ダ・ヴィンチ』は『笑っていいとも!』というか。『本の雑誌』のベスト10は独断と偏見で決定され、知る人ぞ知る作品も含まれる。一方、『ダ・ヴィンチ』の「BOOK OF THE YEAR」は、読者投票という性質上やむをえない面はあるが、有名作・ヒット作ばかりが並ぶ。もっとも、雑誌としては棲み分けができていて、それはそれでいいのかも。
『ダ・ヴィンチ』は、その後リクルートから独立したメディアファクトリー発行となり、さらにKADOKAWAに買収されて今に至る。現在のキャッチコピーは「本とコミックの娯楽マガジン」。いつ頃からか「コミック ダ・ヴィンチ」と称するコーナーも設けられ、初期よりもマンガの比重が大きくなっている。漫画家や人気マンガを切り口とした特集も多く、「南信長」名義でマンガ関連の仕事もしている身としては、つい買ってしまう。
あだち充特集(2012年12月号)では「キーワードから探るあだち作品の真髄」と題した座談会に参加したり、「本vs.カレー」という謎の特集(2014年7月号)では「マンガの中のカレー」をテーマに『マンガ食堂』著者の梅本ゆうこ氏と対談したりもした。
マンガといえば、山岸凉子『舞姫 テレプシコーラ』が同誌の連載だったことは特筆しておきたい。あの空恐ろしいほどの名作を世に送り出した功績は大きく、それだけでも『ダ・ヴィンチ』創刊の意味があったと個人的には思っている。

