『本の雑誌』と『ダ・ヴィンチ』と『よむ』【新保信長】 連載「体験的雑誌クロニクル」24冊目
新保信長「体験的雑誌クロニクル」24冊目
「青木まりこ現象」とは、書店に行くと突如便意を催す現象のこと。『本の雑誌』1985年2月号に掲載された投稿に対して、我も我もと共感の声が届く。そこで、投稿者の名前から「青木まりこ現象」と命名、特集も組まれた。その後も各メディアでたびたび取り上げられ、都市伝説的に広がっていく。古本屋を舞台とした最近話題のマンガ『本なら売るほど』(児島青)でも取り上げられ、作中に『本の雑誌』も登場する。
その頃から、気になる特集の号はちょこちょこ買っていた。ただ、当時のものは引っ越しなどで処分してしまって、今手元に残っている分で一番古いのは2007年4月号「特集=ペンネーム大研究!」の号だ。自分の名前が「信長」(本名)ということもあって、名前と自意識の関係には昔から興味がある。親に付けられた名前ではなく、自分で付けるペンネームにも当然興味津々なのだ。
そんな私が初めて『本の雑誌』で仕事をしたのが2011年7月号。特集は「私小説が読みたい!」だったが、それとは関係なくネタ持ち込みでコラムを書いた。「君の名は」というタイトルで、北尾トロ、下関マグロの二人にペンネームの由来を聞いた記事である。本好きなら誰もが一目置く雑誌に書けただけでもうれしかったが、なんと表紙に「新保信長が『君の名は』で初登場!」と打ってくれたのには感激した。

その後、2012年1月号から12月号まで1年間、「君の名は」をゴリ押しで連載した。登場したのは、吉田戦車、我孫子武丸、ブルボン小林、辛酸なめ子、大森望、桜庭一樹、カラスヤサトシ、林あまり、綱島理友、安西水丸、しりあがり寿、柳田理科雄の12人。いずれ劣らぬ“訳ありペンネーム”で、話を聞いてるだけでも面白かった。どう見てもペンネームな「柳田理科雄」だけは実は本名というのがオチだった。
今や500号を超える老舗雑誌ながら、ミニコミ的手作り感は失われない。手元のバックナンバーで好きな特集をざっと挙げると、「絶景書斎を巡る旅!」「天才編集者・末井昭に急接近!」「角川春樹伝説!」「国語教科書の悦びと哀しみ」「この机がすごい!」「笑って許して誤植ザ・ワールド」「出版で大切なことはすべてマンガで学んだ!」「国会図書館で調べものを」「メニューを読書する!」といったところ。
ほかに毎年の「ベスト10」号も買っているが、2024年度「私のベスト3」では村瀬秀信氏が拙著『食堂生まれ、外食育ち』を3位に挙げてくれて大変光栄だった。いつか総合ベスト10に自分の関わった本が選ばれるのが夢である(もうひとつの夢だった「本棚が見たい!」のコーナーには2024年10月号で出た)。
創刊当初は季刊だった『本の雑誌』は、1979年の隔月刊化を経て1988年に月刊となった。小規模出版社の雑誌としては順調な足取りであり、本好きに本周辺の話題や情報を提供するというコンセプトは正しかったと言えるだろう。

