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英語を勉強した人ほど、聴き取りができなくなる可能性あり。

「最小限主義の心理学」不定期連載第11回

「何もしない」というリスニングのアプローチ

 子どもはニュースから言語を覚えない。あくまで、行動と一緒になった音から覚える。「それを取って」と大人が言って指をさしたら、なんとなく「それ」とか「取って」という言葉の意味を理解していくのだ。その繰り返しのあと、話せるようになる。
 だから、子ども用の英語アニメを観ていても、少しずつ理解できるようになる。大人も、子どものアニメから英語を覚えることができる。
その際、ただ次の音を聴くという姿勢が大事になる。自分が知っている単語が出てくるかどうかとか、訳そう、訳したいという気持ちを排除する。
とにかく音を聴き続ける。
 目は動画を観ている。ストーリーはなんとなくわかる。
それでいいのだ。
 ただ音を聴くというペースは、その後もずっと変わらない。「音を聴いて訳す」というタイミングを使っては、いつまで経ってもネイティブの話すペースについていけない。今後もずっと、訳さずに音を聴き続けるのだ。そして、訳さずに英語として理解する。繰り返していると、それがしっくりくる日がやってくる。
 慣れてくると、大人は「訳したい」「理解したい」という気持ちが芽生えてくる。その瞬間、またリスニング能力は戻ってしまう。
「少し聴き取れて、少し時間をかければ日本語に訳して理解できる」ことが、リスニングの妨げになるのだ。
 結局、この「何もしない」というリスニングをするのは、勉強をした大人にとって難しいということになる。
 ここまでは、「次の言葉に集中することが大切」という要素で、まるで人生と同じ。

 もう一つ、リスニングにおける重要な要素がある。「リスニングは、スピーキングでもある」という要素だ。
 子どもが数ヶ月くらいに聴いた音を、突然使い出す。ということはよくある。数ヶ月前に聴いたアニメの歌を、突然歌い出すこともある。この現象を紐解くと、リスニングの方法も少し理解できるようになる。
 子どもは黙って音を聴いているようでいて、頭の中で相手の言っている音を、自分が話すように聴いている。頭の中で、真似をしているのだ。言った言葉をもう一度復唱するのではなく、聴くときに同時に心で話している。実はこれは、母国語で必ず起こることで、日本人も日本語を聴くときに同じことをしている。黙って聴いているようで、口で話しているように聴いているのだ。これは、人間の持つ物まね能力、共感能力が関係しているらしい。
 ということは、リスニング自体がスピーキングの練習になっている。だから、子どもは口に出して練習することなしに、突然単語を口にしたり、歌ったりするのだ。
 これを実現するには、音を素直に聴き、心の中で話すように聴くこと。スペルを知る必要もないし、単語の本当の意味を追究する必要もない。まずは音を聴く。意味はあとで推測すればいいのだ。当然、間違ってもいい。

 完璧主義者は、これができない。間違ってもいい英語なんて、許されないのだ。
 そして、意味をすぐに理解したいと思う。ただ音を聴くなんて、我慢ならない。

 最後にもう一度。「勉強をすればするほど、聴き取りができなくなる」。
なんという矛盾だろうか。

 

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沼畑 直樹

ぬまはた なおき

ミニマリスト。テーブルマガジンズ代表。元バックパッカー。

2013年、「ミニマリズム」「ミニマリスト」についての記事を発表し、佐々木典士氏とともにブログサイト≪ミニマル&イズム(minimalism.jp)≫をたち上げる。 著書は、小説『ハテナシ』、写真集『ジヴェリ』『パールロード』(Rem York Maash Haas名義)など。


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