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平安時代から続く装束づくり 「現在まで継承できたのは職人の強い意志のおかげ」

第6回 松下装束店 山本正穀さん

平安時代から変わらない
日常品を作り続ける

 続いて、Kさんは神祗装束調度品を取り扱う京都の老舗を訪ねました。江戸時代からつづく松下装束店の山本正穀さんです。

 

K お店で扱っている商品の多さにびっくりしました。装束だけでなく、お祭りで使うお神輿もあるんですよね。
山本 獅子舞の獅子頭、天狗のお面もあります。木があり金物があり、塗りがあって、布ものがある。多様な職人さんの技が集結したお店なんです。
K なるほど。

 

神主が着用する装束。

山本 これは神主さんが着る装束なんですが、触ってみてください。
K えっ、結構パリッとして堅いですよね、布が。
山本 絹でできているんですが、装束で使われる絹というのは、ただ織っただけではなくて、糊張りという作業工程をして、これくらいばりっとした感じに仕上げるんです。
K 確かに堅さはあるけれど、布時代はすごくきめ細かくて、綺麗ですね。
山本 模様のあるものはすべて西陣織、西陣で織られています。

 

装束を縫う山本さん。

K 襟元が変わっていますね。
山本 首上(くびかみ)というんですが、丸いことが特徴なんですが、私が知る限り、世界中で日本にしか残っていないし、今もなお使われている日本だけの形なんですよ。
K 首上はさらに堅いんですが、中にはなにか入っているんですか?
山本 芯には何度も折り曲げた和紙を使っています。それを布と共に縫い上げます。
K 和紙にも針を通すとなると、力が必要ですよね。こういう製作を始められたのは?
山本 古い装束に興味があって、前の人がどうやって縫ったのかというのを、装束を分解し研究を始めたんですが、やってみたら、本当に難しくて、難しくて、途中で投げ出しそうにもなりました。
K 山本さんが扱われる神祗装束に変化はありますか?
山本 基本的には平安時代から変わっていないと言われていますね。変化はないです。

 

 

K 平安時代からいろんなものが変わって来たりしているのに。なぜ?
山本 今、平安時代から受け継がれているのを使っているのが、日本神道であり神社なんです。神様をお守りしている神社で使われるものですから、それほど大きく変わりません。私たちから変えていこうというのは失礼にあたると思っています。
K 神様をお守り続ける心が変わらない限り変わらないと。
山本 そうですね。でも、お父さんや師匠が作ったものを真似しよう、そこを目指そうとすると、同じものは出来てこないんです。いろんな職人さんが今あるものを上回りたい、越えたいという気持ちがあるから、守ってこられた伝統だと思っています。そういう強い意識が神器装束調度品に携わる職人さんはじめ、私ども装束店の人間のなかにあります。

 なるほど。そういう気持ちのほかに大切にされていることはありますか?
山本 私どものことを“伝統産業”と言ってもらえるのはありがたいと思っています。昔から続いていることに間違いはないですし。
 しかし、私たち自身は「日常品を作っている」という感覚なんですよ、今もなお、神社などで日々、使って頂いているわけですから。日常品だからこそ、平安時代からずっと作り続けることができているのも事実なんです。日常品として使いやすいように職人さんたちは、細かい工夫を凝らし、さらに良いものを作ってきたんです。そういう技術を守ることでは、日常を守ることでもあると思っています。そういう日常を次の世代までに残していきたい。装束とは繋いでいきたいと思わせてくれるものですね。

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寺野 典子

てらの のりこ

1965年兵庫県生まれ。ライター・編集者。音楽誌や一般誌などで仕事をしたのち、92年からJリーグ、日本代表を取材。「Number」「サッカーダイジェスト」など多くの雑誌に寄稿する。著作「未来は僕らの手のなか」「未完成 ジュビロ磐田の戦い」「楽しむことは楽じゃない」ほか。日本を代表するサッカー選手たち(中村俊輔、内田篤人、長友佑都ら)のインタビュー集「突破論。」のほか中村俊輔選手や長友佑都選手の書籍の構成なども務める。


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