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中2からだった自殺願望、アイドル・岡田有希子が逃れられなかった生きづらさ

彼女の死は「怪談」となる

「よい子の歌謡曲」1979〜 1991年11月まで刊行されたアイドル音楽誌

■生きづらさから逃れるために

 春は自殺の季節だ。特に日本では、3月から5月にかけて、子供や若者を中心に自ら命を絶つ人が増える傾向にある。

 学校の児童や生徒の自殺については、夏休み明けの9月1日に多発することが知られているが、自殺対策白書(14年)の「18歳以下の日別自殺者数」によれば、それに次ぐのが4月の8日と11日。そして、86年の4月8日に、18歳で自殺したのがアイドルの岡田有希子である。

 デビュー3年目の彼女は前月、高校を卒業しており、社会人として本格的なスタートを切った矢先の死だった。所属事務所のサンミュージックが入っているビルの屋上から飛び降り、即死。ただ、遺書はなく、理由は謎につつまれた。

 もっとも、自殺の理由が単純であることはまずない。彼女の場合もおそらく、プライベートな問題も含め、複合的なものが考えられる。ままならない恋愛だったり、両親の不和だったり、 母の病気だったり。また、彼女は中学2年のときにも実家でガス自殺まがいの行動をしていた。母が帰宅すると、ガスの元栓がゆ

るんでいて、彼女がこう説明したというのだ。

「途中でニオイに気づいて消した。だけどあのままでいたら自殺じゃなく、自然に死ねたのにね。だけどやっぱり死ねなかった」(「愛をください」岡田有希子)

 当時、彼女は教師からのひいきを級友に嫉妬されたり、コンテストへの応募を周囲に反対されたりして、不安定な精神状態だった。また「人間が怖い」とも口にしていたため、母は「自殺しようとしたんじゃないだろうか」と「直感」したらしい。

 そして、じつは自殺の数時間前にも自宅でガス自殺未遂をしていた。

 それゆえ、専務だった福田時雄は、自殺未遂で迷惑をかけた自責の念から、パニックに陥り、飛び降りてしまったという見方をしている。ただ 、彼女がひどく疲れていて、死への衝動に身を委ねたい状態だったのも事実だろう。そこには、仕事における重圧もやはり作用していたのではないか。

 この重圧については、5日にアエラドットから配信された記事「岡田有希子さん没後34年。“アイドルは生身の人間”だと示した特別な存在」に書いた。事務所の先輩である松田聖子が85年に結婚したため「ポスト聖子」の期待をかけられ、人一倍マジメな性格だった彼女にはそれも負担だったと思われるのだ。

 ちなみに、仕事に疲れたり、飽きたりすると、女性の芸能人は恋に逃げがちだ。聖子もそうだし、安室奈美恵などもそうだった。これは長い目で見ればステップアップにもつながり、悪いことではない。彼女の場合も、報じられた年上俳優との関係が事実なら、そういう方向で何かを打開しようとしていたのだろう。

 しかし、彼女の試みは成功しなかったようで、結果、死に逃げるかたちとなった。それは運や巡り合わせより、その性格によるところが大だったかもしれない。中学時代にも自殺未遂まがいの行動をしたように、生きづらさから逃れるために死を考えるような性格だったのだ。

 また、芸能人は大なり小なり、生まれ育った環境からの脱却を願ってデビューする。彼女の場合は、父方が教育者の多い家系で、本人も優等生だった。その環境や立場の息苦しさが芸能や芸術への憧れを強め、猛反対を押し切っての芸能界入りにつながっていく。

 ただ、芸能人になったところで生きづらさが完全に消滅するわけではない。結局、彼女はまた死にたくなってしまったということだろう。偏差値世代の挫折などともいわれたそんな彼女のありように、子供や若者たちが共鳴したのが「ユッコ・シンドローム」と呼ばれた現象だ。この年の初めから目立ち始めていた若年層の自殺は、彼女の死によってさらに激増する。

 

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宝泉 薫

ほうせん かおる

1964年生まれ。主にテレビ・音楽、ダイエット・メンタルヘルスについて執筆。1995年に『ドキュメント摂食障害―明日の私を見つめて』(時事通信社・加藤秀樹名義)を出版する。2016年には『痩せ姫 生きづらさの果てに』(KKベストセラーズ)が話題に。近刊に『あのアイドルがなぜヌードに』(文春ムック)『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、最新刊に『平成の死 追悼は生きる糧』(KKベストセラーズ)がある。ツイッターは、@fuji507で更新中。 


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