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中2からだった自殺願望、アイドル・岡田有希子が逃れられなかった生きづらさ

彼女の死は「怪談」となる

■いきなり生々しい人間じみた姿を

 メディアや世間はその現象に畏れおののき、彼女の死は「怪談」となる。まずは、死んだはずなのに歌番組に映っていたという噂が広まった。古くは菅原道真や平将門の怨霊伝説が示すように、こういうことは珍しくない。ただ、彼女は祀られるかわりに、禁忌となり、生前の姿や業績は十数年にわたって芸能界的に封印された。

 また、死の14年後にはチーフマネージャーをしていた男性が同じビル内のトイレで自殺。メディアは「呼び寄せたのか」と報じた。さらに 、彼女が卒業した堀越高校芸能コースの同期には、若死にが相次いでいる。20人足らずのなかで、本田美奈子と菊地陽子(ともに白血病 )、松本友里(自殺)が40代前半までに旅立った。

 とはいえ「怪談」だったのは彼女の死そのものかもしれない。いつも可愛い服を着て笑顔で歌っていた少女が突然、ビルから飛び降りて地上にたたきつけられ、血液や脳みそまで飛び散った遺体写真がメディアを通して紹介された。お人形のような偶像だったはずのアイドルが、いきなり生々しい人間じみた姿をさらけだしたのである。

 ただ、生身の彼女を知る人にとって、その死は怪談ではない。それぞれが懐かしい思い出を抱えながら生きている。たとえば、ある業界人は彼女とたわむれに結婚の約束をした話を語った。「私って結婚できない気がするなぁ」「じゃあ、僕と結婚しようか」といった流れで指切りをしたのだという。

 このエピソードを聞いたとき、渡辺淳一の自伝的小説「阿寒に果つ」を思い出した。天才少女画家と謳われながら、18歳で自殺した加清純子をモデルに書かれたものだ。渡辺にとって初恋の人だったというが、他にも多くの男性と交友していた。小説は渡辺自身を含め、彼女と関わった人々がそれぞれの思い出を語る構成になっていて、若くして自殺するような女性ならではの不安定で儚い魅力が浮き彫りにされている。

 渡辺といえば「失楽園」をはじめ、自殺の話を好む作家だが、そこにはこうした原体験も影響しているのだろう。かく言う筆者(宝泉)もまたしかり。デビュー前に偶然街で出会ったり、インタビューをしたり、追悼本を作ったりという程度の関わりだったが、21歳で遭遇した岡田有希子の死が、その後の人生にもたらした影響は小さくない。

 たとえば、拙著『痩せ姫 生きづらさの果てに』に登場する22歳の拒食志向のある女性は、名前の読みが彼女の本名(佐藤佳代)と同じだった。それゆえ、親近感を覚えたようで、こんなことを口にした。

「18歳で人生のときを止めることができたことをうらやましく思います。ものすごく不謹慎ですけど」

 じつは生きづらさと死をめぐる構図において、自殺願望と拒食志向は通じるところがある。このふたつは筆者にとって重要なテーマで、前者については34年前に目にした彼女の悲劇と無縁ではない。その最期にどこか導かれるようにして、執筆活動を続けてきたという意味で、彼女は人生の恩人でもある。

 とまあ、最後に自分語りをしてしまったが、なんにせよ、彼女はアイドルとしても生身の人間としても素敵な存在だった。だからこそ、彼女を覚えている人たちのなかで今も生き続けているのだ。

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宝泉 薫

ほうせん かおる

1964年生まれ。主にテレビ・音楽、ダイエット・メンタルヘルスについて執筆。1995年に『ドキュメント摂食障害―明日の私を見つめて』(時事通信社・加藤秀樹名義)を出版する。2016年には『痩せ姫 生きづらさの果てに』(KKベストセラーズ)が話題に。近刊に『あのアイドルがなぜヌードに』(文春ムック)『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、最新刊に『平成の死 追悼は生きる糧』(KKベストセラーズ)がある。ツイッターは、@fuji507で更新中。 


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