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僧侶も知らない仏教アナザーワールド ~お坊さんから見た仏教マンガの今~

現在観測 第16回

仏教マンガの変遷

この他にも、直接仏教のモチーフが出てきていないが、内容が仏教的であると感じる作品も仏教マンガであるとする研究者もいるが、その場合、他宗教/思想との差を明確に出来ない場合が多く、読み手の推測をベースとせざるを得ないので、私としては絵なり文章なりの客観的な指標で判断するにとどめておきたい。また、伝統仏教教団の範囲内の作品を研究対象としており、仏教系新宗教及び新新宗教の作品は除外している。

それを踏まえて、次にこちらのグラフをご覧いただこう。 

 

 

これは、「仏教マンガの発行数の推移」である。このグラフを見てまず目を引くのが80年代の突出した数値であるが、何といっても1989~1997年にかけて仏教書籍専門の鈴木出版が出した「仏教コミックス(ひろさちや:監修)」(全109巻)の影響によるものが大きい。だが、この一大プロジェクトが落ち着いて以降、仏教系出版社から発行される作品は現在に至るまで減少傾向にある。その一方で、90年代初頭のバブル崩壊以降、モノが売れない不景気の続く日本社会にあって、一般出版社からの発行が増加傾向にあることは象徴的だ。というのも、布教重視で採算をあまり問題にしない教団組織の出版社や、ある程度の固定層を持つ仏教書中心の出版社と違い、一般の出版社は細かい認識の違いはあるにせよ、一定の社会的ニーズが存在する“売れる商品”として仏教マンガを見据えていると捉えて良いだろう。これは、布教教化ツールとしての子ども向け仏教マンガしか知らない仏教の内側にいる人にとって、あまりピンと来ない事実である。

ということで、この現象をもう少し細かく分析してみよう。1986年に石ノ森章太郎『マンガ日本経済入門』が登場して以降、マンガはあくまでも子どもの読み物で、年齢を重ねるにつれ自然に卒業をしていくというそれまでの常識が崩れ、ビジネスマンをターゲットにした大人でも読むに堪えうるマンガが量産されるようになった。この流れは、仏教マンガにおいても例外ではなく、主人公が悩める大人になり、仏や僧侶が彼らを導くといった形で、人生の在り方を仏教の中に求めるような、大人がリアルタイムで読んで感化されるような作品が、一般の出版社から多く発表されるようになる。それまでの仏教系出版社が、青少年教化を目的に釈尊や祖師方の伝記や教えを発行してきたのに対し、一般の出版社は全く別の切り口で展開しているところに特徴がある。

それに関しては、次のグラフを見ていただきたい。

 

これは、「仏教マンガ分類別の割合の推移」である。これまで発行された仏教マンガを「仏教マンガの4分類」に当てはめ、その割合の推移を示した。極めて大雑把にいえば、仏教系出版社の発行する仏教マンガは、仏教者の伝記の類である「I」と、難しい仏の教えを分かり易くしようと試みる「II」に偏る傾向があり、一方で一般の出版社では、「I」や「II」がないわけではないが、現代の仏教者の実状を描く「III」と、キャラとして仏教者や世界観は出てくるものの主題を仏教に置かない「IV」の作品が多く見られる。冒頭で触れた月9ドラマ「5時から9時まで」も、相原実貴による同名のマンガを原作としているが、これなどはIVに分類される。

90年代以降、一般出版社の仏教マンガの発行数が増えるにつれ、IIIとIVの割合も比例して増えており、特にIIIの割合が大きく伸びているのがお分かりだろう。実は、ここに現代の仏教マンガの特徴がある。

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吉村 昇洋

よしむら しょうよう

1977年3月、広島県生まれ。

曹洞宗八屋山普門寺副住職/臨床心理士/相愛大学非常勤講師

曹洞宗大本山永平寺にて2年2ヶ月間の修行生活を送ったのち、臨床心理士資格を取得。現在広島県内の精神病院にて勤務。禅仏教や臨床心理学、精進料理、仏教マンガに関する講師、執筆活動を積極的に行い、最近ではNHK Eテレ『趣味Do楽』「いただきます お寺のごはん」の講師として人気を博す。著書に『心が疲れたらお粥を食べなさい』『気にしない生き方』(いずれも幻冬舎)のほか、『週末禅僧ごはん』(主婦と生活社)がある。


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