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岩田健太郎医師「《免疫力》はメンテするものアップなどしません」間違いだらけの感染症対策! 【感染症から命を守る講義⑯】

命を守る講義⑯「新型コロナウイルスの真実」


感染症から命を守るための原理原則は変わらない。この原則を体に染み込ませる決定版。感染症専門医の第一人者・岩田健太郎神戸大学病院感染症教授の最新刊『新型コロナウイルスの真実』をもとに現在の感染者が急増する緊急事態に対し、私たちが「今、できる対策」を連続講義いただいた。「新型コロナウイルス感染症」から自分と家族、人々の命を守るために今、私たちは何をすべきか。
 第16回目は、感染症対策として「免疫力アップ」の誤解を学びます。


 

■「免疫力」の正体って?

岩田健太郎

 巷では「〇〇を食べたら治った!」みたいな話が出回っているようですが、基本的に取るに足りません。今のところ、新型コロナウイルスに関して「これをやったら治る」とか「予防に効く」ような食品はありません。何しろ、現在の段階では、堅牢な臨床試験で証明された治療薬が存在しないわけですから、「私はこれ飲んだら大丈夫だった」みたいな納豆とかヨーグルトとか、ホメオパシーのレメディみたいなやつも全部でたらめだと思っていい。

 そもそも、一般論として「免疫力アップ」という言葉はだいたいインチキだと思っていいんです。ステロイドとか免疫抑制剤のように、免疫力を「下げるもの」の候補は世の中にたくさんあります。あとで説明しますが、免疫力を下げる行動もたくさんあります。でも、免疫力を総合的に上げる方法ってないんです。

 それを理解してもらうために、「そもそも免疫力とは何なのか」についてお話ししましょう。

 「免疫力」とは病原体に対抗する力、つまり生体防御反応の強さのことです。これは、強くなれば強くなるほどいいものではなく、むしろになります。

 例えばアトピー性皮膚炎や喘息、花粉症、関節リウマチなどの症状は「自己免疫疾患」に分類されますが、これらは全部免疫力が高すぎるがゆえに起きた弊害です。つまり、免疫力ってバランスなので、高すぎても低すぎてもダメなので、「免疫力アップ」を売り物にしている時点で、既に間違いです。

 ぼくも学生の頃に、免疫細胞の機能に関する実験をしていましたけど、一般的に免疫力アップを謳う医者がいたら、その人はインチキだと決めつけてほぼ間違いないでしょう。

 それではインチキでなく免疫力を上げる方法はないのかというと、一つだけあります(専門家であれば「他にもある」と反論するでしょうが、一般の方が知っておくべきは「一つだけ」です)。

 それはワクチンです。
 ワクチンは、特定の病原体に対する免疫力を高めて防御するもので、典型的なものは麻疹(ましん・はしか)のワクチンです。先ほど説明したとおり、麻疹は普通の感染防御が全く通用しない、たいへん怖い感染症ですが、ワクチンはすごく効く。だからみんな麻疹に罹らなくて済んでいるんですね。
 麻疹のウイルスは新型コロナウイルスなんかよりもはるかに感染力が強いですから、ワクチンがなかったら世界中麻疹だらけになって大変なことになっているわけで、我々が麻疹にならなくて済んでいるのは、ワクチンがあり、ちゃんと接種しているからなんです。

 日本の感染症でいえば、日本脳炎も同様です。日本脳炎ウイルスは豚の中に生息していて、夏になると蚊を介して人間に感染します。じつは、豚の体内のウイルスを排除できないので、日本中、ウイルスだらけなんですよ。
 でも日本脳炎って、今の日本ではめったに起きないですよね。それは子供の頃にちゃんと日本脳炎ワクチンを打ってるからなんです。
 このようにワクチンは、我々は普段自覚はしないですけど、ちゃんと我々の体を守ってくれているんです。

◼︎免疫力は自覚できず「メンテナンス」するもの

 

 「免疫力」は、目に見えないので、自覚できないものです。「お酒を飲み過ぎて肝臓の調子が悪い」とか「食い過ぎて胃の調子が悪い」とかは自覚できるけど、「いま免疫が弱ってる」みたいなことは自覚できない。体の調子が悪いときに「ちょっと免疫が落ちてるな」みたいに言っちゃうこともあるでしょうが、それは免疫とはまた無関係な、ただの疲労のことが多いですね。それではワクチン以外では免疫は変わらないかというと、一過的に下がることはよくあります。

 例えばぼくはマラソンをしますが、一般的に、フルマラソンをした後は数週間、免疫が下がるといわれてます。だからフルマラソンの後は風邪をひきやすくなるんですね。

 マラソンのような無理をして免疫力が下がることはよくあるんですけど、かといってアップする方法はない。でもあえて言うならば、免疫力をメンテナンスする、正常な状態に維持する方法ならあります。それは休養、睡眠、適度な運動……「適度」というのは、マラソンみたいな過度な運動じゃなくて普通の運動ですね、そして食事栄養のバランスです。

 食事も特別なサプリメントとか必要なくて、果物とか野菜に入っているビタミンを摂れば十分です。休養、睡眠、運動、食事……要するに普通にするのが一番なんです。特別なことをする必要は一切ありません。
 と言われても「その普通が難しいんだよ!」と思う方も多いですよね。

 日本の社会の場合、「普通のこと」ができないから、その結果として病気になる人も多い。けれども、残念ですが、睡眠不足を睡眠以外の方法で補うことはできません。睡眠不足が原因で病気になりやすい人は寝るのが一番だし、疲労がたまっている人は休養を取るしかない。疲れているときに栄養ドリンクを飲んでも意味はありません。あれにはビタミン以外にもアルコールとかカフェインとかが入っていて、「疲れてないよ」と錯覚を与える効果があるんです。なんか元気になった気分になるけど、疲労そのものを取ってるわけではなく、単に自分をごまかしているだけなんです。昔、よく鉱山とかでヒロポン注射を打って疲労困憊の人たちを無理やり働かせたわけですけど、やっていることはそれと一緒です。

 繰り返しますが、疲れている人は休養、寝不足の人は睡眠、栄養が足りない人は栄養、運動してない人は適度な運動と、普通のことをするしかない。
 バランスなのです。
 免疫力はメンテナンスするものであって、アップするものではない、という考え方が大事になってきます。(「新型コロナウイルスの真実⑰ 」へつづく)

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岩田 健太郎

いわた けんたろう

1971年、島根県生まれ。神戸大学大学院医学研究科・微生物感染症学講座感染治療学分野教授。神戸大学都市安全研究センター教授。NYで炭疽菌テロ、北京でSARS流行時の臨床を経験。日本では亀田総合病院(千葉県)で、感染症内科部長、同総合診療・感染症科部長を歴任。著書に『予防接種は「効く」のか?』『1秒もムダに生きない』(ともに光文社新書)、『「患者様」が医療を壊す』(新潮選書)、『主体性は数えられるか』(筑摩選書)など多数。


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