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世界は“右傾化”している? ドイツでも起きている「トランプ現象」

右派政党「AfD(ドイツの選択肢)」が台頭するドイツを検証する(髙山正之×川口マーン惠美)

11月8に実施された米大統領選において、ドナルド・トランプ氏がヒラリー・クリントンに勝利しました―。「トランプ旋風」が吹き荒れた今回の選挙でしたが、このムーブメントはドイツにも見られます。人気論客二人(高山正之×川口マーン恵美)がドイツ政治の現状を語ります。

ドイツでも起きている「トランプ現象」

髙山 現在のドイツ政治をみると、これまでの保守的なものとは違う、どちらかというとかなり「革新」に寄ったものになっていますね。

川口 革新というほどではないけれど、ドイツの政治勢力は主要政党の「ドイツキリスト教民主同盟(CDU)」も「社会民主党(SPD)」も真ん中に寄ってしまい、CDUの右側に隙間ができた。その隙間に、AfD(ドイツの選択肢)が入り込んだわけです。AfDのことは、既成政党やメディアが「極右政党」とか「ポピュリスト」と呼んで蛇蝎のように嫌っていますが、これはどう考えても、CDUが自分で招いた現象でしょう。

 もともとAfDは、EUの共同通貨「ユーロ」に反対する経済的主張を掲げていた党で、経済学者や大学教授たちが作りました。「ユーロは経済状態のまったく違う国が一緒になって、同じお金を使うようにする制度であり、その歪みがユーロ危機を引き起こした」というのが設立動機です。「EUという政治共同体を作るのには賛成だが、無理な経済的統合はやめるべきである」という主張ですね。

髙山 そこに、いままでは保守派だったCDUの左旋回に違和感を覚えた人たちがAfDに流れてきたんだね。

川口 そういうことです。その他にもAfDを支持しているのはもう一派あって、「どうも最近は収入の格差も出てきているし、民主主義体制にもかかわらず、自分たちはバカを見ているような気がする」と考える労働者層です。

髙山 なるほど。いままでだったら、受け皿としてSPDがあったのに、「SPDは労働者の味方をしてくれていない」と感じる人たちが少しナショナリズムに傾いてAfDに加わったと。つまり、ドイツでもある種の「トランプ現象」が広がっていると言えるね。

川口 ドイツだけではなく、ヨーロッパのほとんどすべてでしょう。

 こうした勢いがあるので、既成政党はみな戦々恐々としています。「ポピュリストたちの台頭を看過すると、民主主義が壊れる」とか、「戦争になる」とか、一生懸命危機感を煽るのですが、やればやるほど自分たちはズルズル落っこちて、右派の支持率は伸びるばかり。先日の地方選挙のあと、「AfDに票を入れたのは、低学歴、低収入、失業者が多い」というような報道もあり、これにはメディアの悪意を感じましたね。そういうレッテルを張りたい気持ちはわかるけれど、そろそろ、AfD支持にはもっと深い意味があるのではないかと真摯に考え始めるべき時期が来ているのではないでしょうか。

髙山 さらに面白いのは、国によっては、同じような理由で左派の政党も支持を伸ばしていることです。オーストリアではこの前の大統領選で右翼政党とみどりの党が争った。これは典型的な例です。後者がギリギリで勝ちましたが、不正があったということで結局やり直しです。だから今度はひっくり返るかもしれません。ギリシャの与党も、左派だけでは足りず、極右と言われていた党との連立です。

 フランスでは右派の国民戦線が台頭してきていますが、イタリア、スペインなどでは、左翼勢力が元気になってきました。

川口 イデオロギーとしては正反対に見えますが、不満の大元は同じなのです。持たざるものの反乱。ちなみに、右派と左派が一緒になったものが、過去の「国家社会主義ドイツ労働者党」、つまりナチでした。

 

*『日・米・独―10年後に生き残っている国はどこだ』 高山正之×川口マーン恵美(KKベストセラーズ)より抜粋

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