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「9.11以降」アニメを作ってみた? そこから見える「3.11以降」の世界

現在観測 第9回

 それから1年近く。世間の無理解と果てしなく続く準備作業で限界に達しつつあった頃、(途中三回入院しました)ある方のご好意でアニメ制作会社の(株)スタジオディーンさんを紹介されました。ディーンさんといえば『うる星やつら』なんかも作ってる、回った中では一番の老舗で、最もこうした作品とは縁遠いと思われる会社。

 ところが担当で出てきた方が、ことのほかカニバル星人の世界観を気に入り、前例のない依頼、前例のない作風ながら討議の末に、なんとこのアニメ大手のデジタル班「うみどり」がカニバル星人を作ることに決定したのです。

 突然壁が開いた様な展開でした。そして間もなく作業が開始されましたが、流石は日本のアニメ会社。するすると魔法の様にアニメーションができ上がっていきます。

 自分も背景用の資料やキャラデザインを提供し、よりイメージが膨みます。自分の作り出したキャラクターがモリモリと動くのを見る異様な高揚感。いまさらながら日本が誇るこのクリエイションは、ただごとではないと実感しました。

 そして遂に「カニバル星人」は完成、間をおかず数々の海外の映画祭に出品、入選しました。招待されるだけではつまらないので、知人の特殊造型作家にカニバルマスクを作ってもらい、それを被って世界中赴きました。カニバル星人が作ったアニメ、みたいなメタ的演出です。もうなんでもやりますみたいな。

 結果として一番狙った賞は取れませんでしたが、アメリカ、カナダ、フランス、オランダなど各国15カ所の映画祭に入選して、合計で5つのベストアニメやベスト賞を貰いました。

 さらにその後日本で営業した際に、フジテレビのめざましTVの方の目に止まり、思わぬことに同番組で制作する期間限定の風刺系アニメコーナーを担当する話になりました。その後もカニバル星人は電子書籍になったり、大川興業さんの有料チャンネルのプログラムになったりと、いまでも動き続けています。

『カニバル星人』公式ホームページ

 ただ、やはりカニバル星人は大成功というわけではありません。日本ではもう一つ理解されないのは相変わらずですし、海外で「日本のアニメ」として求められるのはやはり萌えやジャパニメーションとされるものであり、カニバルの洋風な作風が逆に敬遠されるケースもありました。

 つまり僕個人の志向や作品のクオリティとは関係なく、一歩海外に出た途端に背中に「日本」が付きまとうわけです。(余談ですが、個人的に日本のアニメのあの丸みを帯びた「線」は平仮名を書く時の筋肉で描かれてる様に思います。だから平仮名を書けない外人には日本のアニメ絵を習得するのにハードルが高いのではないかと)死力を尽くして制作した作品でしたが、残念ながら世界は変わらなかったのです(笑)。

 冒頭に挙げたAかBのどちらがいいか、はやはり難しい問題です。日本のアニメーションを「ジャンル」として捉えれば、萌えやクールジャパン的な定型的なスタイルに落ち着きますし、国内はもちろんも海外でブランディングは成功しています。つまり特産品=Aのやり方です。

 しかしアニメを「技術」として捉えたらどうでしょう。各国のトレンドやローカライズをきっちり行えば、より多種多様な作品が展開できますし、まさにBのスタイルで日本のアニメが国外で発展していくことも可能なのではないでしょうか。コネも実績も根回しもしていない自分が一本のアニメでここまでやれたのが、ひとつの実証かとも思います。確かな技術力を持つ日本のアニメには「多様性」という金脈がまだ残っている様に思えるのです。

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佐藤 懐智

さとう かいち

東京生まれ。

フリーの監督として、

東北新社のVシネマ、テレビ朝日の深夜番組等を担当した後、

ディストリビューション会社勤務を経てアニメ制作を開始。

『カニバル星人』(企画、脚本、キャラデザイン、監督)

『ダイナミック・ヴィーナス』(企画、脚本、キャラデザイン、監督)

の2作品でニューヨークインディペンデントフィルムフェスティバル、

ロッテルダム映画祭(オランダ)、シッチェス国際映画祭(スイス)など、

2015年1月現在まで合計25カ国の映画祭にて入賞、入選。

他にフジテレビ系めざましTVアニメコーナー「Hard Talk Cafe」

(脚本、キャラデザイン、監督、出演)

実写『Liquid』(企画、プロデュース、脚本、編集)が2015年にカナダの配給会社より展開予定。

その他『シュウベルト』『火星の人参』『殺し屋。リィ。』『走馬燈屋の退屈』(企画、脚本、編集、監督)など。

現在フランスと合同で新作アニメ『誘拐アンナ』を製作中。


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