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飲んでも治らない!? 実はアブない!? 生活習慣病の治療薬

高血圧、糖尿病、高脂血症……意外と知らないクスリのリスク [薬のオモテとウラ]

重症の患者以外は薬を“飲まない”治療を

 今年5月、日本糖尿病学会と日本老年医学会から「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標」が発表され、薬が必要かどうかを判断する基準に用いられるHbA1c値の管理目標値が大きく緩和された。これまではHbA1c値が一律「6・5%以上」で高血糖とみなされ、薬の服用が常識とされていた。新基準では、65歳以上の高齢者について年齢や健康状態、使用している薬の種類に応じて、7・0~8・5未満に分類。よりきめ細かく個別の治療を行えるようになったのだ。

 約950万人といわれる糖尿病患者のうち、約3分の2は65歳以上とみられている。今回、高齢者の目標が緩められたのは、投薬による重症低血糖を予防しながら治療するためだという。

「重症化した糖尿病の人は別ですが、少なくとも入り口の人は、薬を飲む必要はありません。糖尿病の薬は、どれも非常によく効きますが、薬によって血糖値を下げすぎると、死亡率が高まることもわかっているのです」。

 例えば、広く使われているスルフォニル尿素薬(SU剤)は、高齢者にとって危険な低血糖を引き起こす場合がある。一方、低血糖をあまり起こさないといわれ、注目されているのがDPP-4阻害薬。血糖値が上昇したときにインスリン分泌を促進する作用がある。しかし、総死亡率を下げる効果はまだ実証されていない。さらに、SU剤とビグアナイドの併用によって死亡率が高まるという報告もある。治療薬を服用する際には、医師との十分なコミュニケーションが必要だ。

 高脂血症の治療薬は、スタチン系と呼ばれる薬が広く使われている。特徴はLDL(悪玉)コレステロール値が非常によく下がること。だが、長期間の服用で腎臓病の発症リスクが上がるという指摘もある。また、筋肉の細胞が溶ける横紋筋融解症の副作用も指摘されるが、これはごくまれなケースだ。

 一方、生活習慣病の進展が病因となる脳梗塞や心筋梗塞の予防には、いわゆる“血液をサラサラにする”薬が一般的に用いられる。

「ワルファリンなどの抗凝固薬や、クロピドグレルなどの抗血小板薬には、脳梗塞や心筋梗塞を予防する効果があります。しかし、血液が固まるのを抑えることで、脳出血のリスクが高まるので、結果的には死亡率を下げるとはいいがたい」。

 どんな薬にもメリットとデメリットはある。患者とその家族は、病状に応じて治療法をじっくり考えたい。

 

岡田正彦さん
新潟大学名誉教授、水野介護老人保健施設長、水野記念病院常務理事。
新潟大学医学部卒。1990年に同大学教授となり、動脈硬化症、予防医療学などの研究に従事。2012年より現職。『死ぬときに後悔しない医者とクスリの選び方』(アスコム)など著書多数。

※『一個人』2016年11月号

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