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習近平が権力の集中化を急ぐのはなぜか?
中国はソ連のように崩壊しないのか?

中国専門ジャーナリスト福島香織が語る「チャイナリスク2017 衝撃の真実」

 蛇足ながら旧ソ連崩壊のプロセスについて、簡単に説明すると、一九八五年三月にソ連共産党書記長に選出されたミハイル・ゴルバチョフが、ニキータ・フルシチョフ[一八九四~一九七一/ソビエト連邦第四代最高指導者。スターリン批判と集団指導を掲げる]失脚以来封印されていた社会主義が許す範囲のペレストロイカ、グラスノスチ(情報公開)に着手したのが直接の始まりだ。

 続いて、東欧諸国に対する指導性を放棄し、東欧に民主化運動の波が起きる。そのことがソ連に跳ね返り、その連邦制を揺るがすことになり、ソ連崩壊に至るのだが、その過程で、ゴルバチョフは経済を立て直すために軍事費削減と大幅な軍縮と 軍の使命、任務、体制、編成の大幅な改革を行い、軍に対する党の指導を自発的に放棄。軍内の総政治部を廃止して、ソ連共産党は軍事機関業務に関与してはならないとした。

 そしてソ連大統領制を導入し憲法を改正し、ソ連共産党の一党独裁体制を終わらせると同時に、ソ連共産党から軍隊を指導する権力を法律の上からも剝奪(はくだつ)した。その結果、ソ連軍内で党脱退ブームが起き、一九九一年のゲンナジー・ヤナーエフ[一九三七~二〇一〇/ソ連副大統領。一九九一年のソ連八月クーデターの首謀者の一人]ら守旧派によるクーデター八・一九政変[一九九一年八月一九日にモスクワで発生したクーデターで、ロシア連邦成立に至る]のとき、軍の実行部隊は上級の命令を拒否して、エリツィン側民主勢力を支持したのだった。クーデターは失敗、ソ連共産党は瓦解(がかい)し、ソ連は解体される。

 こうした一連の出来事の根本を、習近平は党が軍権を掌握(しょうあく)できなかったことだと考えたわけだ。そして、中国がいま崩壊の危機に瀕(ひん)していると考え、それを回避し、旧ソ連と同じ轍(てつ)を踏まないようにするには、専制を維持するための道具=軍をしっかり掌握することが何より重要だと考えるに至った。共産党政権は銃口から生まれた政権であり、軍が党の最後の砦(とりで)なのだ。

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