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国際政治は上品なものではなく、下品だということに日本人も気づかなければならない

いま誇るべき日本人の精神 第11回

「いま誇るべき日本人の精神」(ベスト新書)を上梓。日本人は戦後いかに変わり、そして大事なものを失ってしまったのか。また日本人が本来もつ美徳とは何なのか。保守派の重鎮である加瀬英明氏から話を聞いた。

 日本では国際政治というと、何か高尚なもので、手の届かない遠いところで行われているという、イメージが強い。多くの日本人が、国際政治を上品なものだと思っているが、下品なものだというほうが、現実に近い。

 

 日本では歴史を通じて、概して善政が施かれてきた。中国や、朝鮮でみられたような過酷な政治が、行われることがなかった。
 徳川時代の日本をとれば、三百あまりの藩か、国々に分かれていたが、為政者は総じて真面目で、領民を大切に扱って、節度があった。
 このために、日本人は外国についても、同じイメージを描きがちである。ある国が国家の外見をなしていて、政府があれば、まっとうな国であると、思ってしまいやすい。
 しかし、私たちの周囲でも、同じ人間のなかに、強盗もいれば、詐欺師もいるように、国家指導者にも、泥棒や、殺人者や、狂気に駆られた者がいる。
 国際政治も、私たちと同じように風邪をひき、腹のなかに回虫がいる人々が、行なっている。外交文書といっても、商業文や、ラブレターと、変わりがない。私たちにとって、きわめて身近な世界である。

 国際政治は、子供の世界に似ていて、〃いじめっこ〃がいるものだ。日本で学校における「いじめ」が、しばしば、社会問題として取り上げられる。
 子どもの社会の「いじめ」は、いつの時代にも存在するものだ。子供の時代のいじめも、人づくりに当たって、教育のひとつとして、必要なものだ。
おとなの社会でも、いじめが日常的に行われている。徒党を組んだり、派閥を組むとか、気に入らない者を中傷したり、競争相手を蹴落としたりする。子供も、おとなも、変わらない。
 いじめがまったくない環境で育った子供は、いくら善意に溢れていて、善良であったとしても、ひ弱で、頼りなく、社会に出てから、まともに生きてゆくことができない。いじめを体験することによって、子どもは適当な狡さと、ある程度の逞しさを、身につけるものだ。
 国際社会の場にも、いじめっ子がいる。人間の世界だから、そう変わるものではあるまい。
 ところが、日本国憲法はいじめっ子がいない世界を、想定している。そのために、人間世界の現実から、大きく遊離している。
 ひ弱な国家は、生存できない。国家には、逞しさが必要だ。
 世界のなかで、日本だけが、国連というと、諸国が睦み合う場だと思っているが、世界中、どの国も国連といえば、諸国が国益を主張して、角を突きあう、ボクシングのリングのような闘争の場だと、みなしている。
 日本は戦後、アメリカの絶対的な軍事保護のもとで、いじめを知らずに、育ってきた。アメリカという保護者のもとで、すっかり過保護な子供になってしまった。
 そのうえ、アメリカによる保護を、天与の平和であるとして、取り違えてしまったから、救われない。
 だが、世界はいまだに強食弱肉のジャングルに、似ている。
 どの国家であっても、野性味を帯びているべきものなのに、日本は家畜か、ペットのような、飼育された国になってしまった。
 独立国としては、したたかさと、野性味を持っていなければなるまい。

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加瀬 英明

かせ ひであき

1936年東京生まれ。外交評論家。慶應義塾大学、エール大学、コロンビア大学に学ぶ。「ブリタニカ国際大百科事典」初代編集長。1977年より福田・中曽根内閣で首相特別顧問を務めた。日本ペンクラブ理事、松下政経塾相談役などを歴任。著書に『イギリス 衰亡しない伝統国家』(講談社)、『天皇家の戦い』(新潮社)、『徳の国富論』(自由社)、『アメリカはいつまで超大国でいられるか』(祥伝社)、『中国人韓国人にはなぜ「心」がないのか』、『大東亜戦争で日本はいかに世界を変えたか』、『いま誇るべき日本人の精神』(ともにKKベストセラーズ)など。



 


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  • 加瀬 英明
  • 2016.05.10