英国の家は欧州でいちばん小さい。でも贅沢! |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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英国の家は欧州でいちばん小さい。でも贅沢!

インタビュー/『イギリス流 小さな家で贅沢に暮らす』著者・井形慶子

Q6 ライフスタイルに合わせて家を住み替えていくというイギリス流住まい術はダイナミックですが、日本でもこのやり方は可能と思われますか?

井形:可能だと思います。イギリス人は一生の間に最低7回以上の引っ越しをすると言われています。日本の場合、引っ越しというのは同じ沿線、同じ町内、もしくは近隣で移動するケースがとても多いのですが、イギリス人の場合は、例えば北のスコットランドからロンドンに移り住み、そこからウエールズ地方に住み替えると、広域なのです。日本で言えば「北海道—九州—東京」といった感じでしょうか。そんなアクロバティックな住み替えがごく普通に行われています。

 イギリス人はどこに住んだとしてもそこには新しい出会い、自分の生活を創り出す「チェレンジする楽しみ」があるのです。今までの生活スタイルとは離れて、新しい人生に立ち向かうことは、生活をリフレッシュできるチャンスだといいます。良い学校も都市部だけでなく全英に散らばり、高速も無料など、地方のあり方も日本とは違う気がします。

 最初に「日本でも可能」と言ったのは、日本のなかにも、田舎に住むとか、家で仕事をする(ホームオフィス)といった発想が広がりつつあるからです。高度成長期の日本人のように会社に通ってがむしゃらに働き、家族と離れて暮らしながらストレスを溜め込み、果ては身体を壊してしまう。そんな生活をおくるよりも、高所得者にならなくとも自分の時間を大事にしながら、好きなことができる人生を生きたいと考える人が確実に増えてきています。

東京では不動産は高騰していますが、値上がりした不動産を売却して地方に小さな家を購入し、余ったお金は預貯金として貯めておく。そういった生き方を実践しようとする人たちがこれからは出てくるのではないかと思います。

 

Q7 イギリスでは家を「回転」させるとよくいわれますが?

井形:イギリスだけでなく日本でも同様ですが、「収入を安定的に得られるようにする」というのは少子高齢化に向けて一般庶民に課せられた課題だと思います。国はもう頼りになりません。頼りになるのはイギリスの場合だと「家」ということになります。

 子供たちが巣立った家には必ず空き部屋ができます。現金収入のほしいイギリス人はその空き部屋を民泊あるいはホームステイというかたちで貸し出し、僅かでも現金収入を得ようと考えます。だから日本人が「親の住んでいた家が空き家になって困っている」と嘆く様子を見て、「なんともったいないことに悩んでいるのか」と思うわけです。もしもイギリス人がそんな空き家を持っていたら、改装して小さなビジネスを始めるとか地域の人たちに集合オフィスとして貸し出すとか、いろいろ考えてそこから現金収入を得ようとするでしょう。この本にもそういう実例が出てきます。それが「家を回転させる」生き方、イギリス人のお家芸といえるものです。

 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
Q8 本書の写真はどれも人の息遣いや温もりが感じられて、写真を見ているだけでも幸せな気分にさせられます。撮影秘話などありましたらお話しください

井形:本書のなかで特に時間をかけて取材した方が二人います。一人は最高レベルの女子校として名高いチェルトナムレディースカレッジの保健室長だった女性です。未亡人で今は一人暮らしをしています。彼女の家では総計5千枚近くの写真を撮影をしました。彼女はなんと寝室のクローゼットの中にトイレと洗面所を造っていたんです。それを見たとき、彼女のスペース活用法には並々ならぬ工夫があると思い、ついのめり込んで取材してしまったわけです。「こんなことがめずらしいの?」とあきれられても、さりげないお喋りで話をつなぎ、説明を聞きながらシャッターを押すみたいなことをまる2日間連続して行いました。大変でしたが、とても楽く充実していました。それからもう一人は本書の表紙になったデザイナーのミッシェルさん。彼女はロンドン東部の1LDK庭付きフラットに住んでいます。コンパクトで美しい彼女の住まいは本書のテーマにピッタリのもので、服の打ち合わせて訪ねた私はびっくりしました。ただ、彼女は家で仕事をされていて、プライベートはあまり明かしたくないという雰囲気がありましたので、お話は庭の小さなテーブルで伺いました。もちろんキッチンにはテーブルがあるのですが、それは彼女の仕事机になっていますので、初回から庭にある小さなテーブルを囲んで、取材スタッフが顔をつき合わせて打合せをしました。狭いスペースですが本当に庭を活用しているんだな、飾りもののガーデンテーブルではないと思いましたね。

 

 

Q9 それでは最後に、読者に向けてひとことメッセージをお願いします。

井形:この本を貫くコンセプトは「必要にして十分という価値観」です。今は日本でもいらない物を捨ててコンパクトに暮らすということに関心を持っている人が多いとは思いますが、なかなか思った通りにはいかないというのも現実です。この本のタイトルにもなっている「小さな家で贅沢に暮らす」というフレーズの「贅沢」は、一般的に使われている贅沢とはちょっと意味合いが違います。

 イギリス人はもともと質実剛健で、無駄なものにはお金もスペースも使わないというのが、考え方が基本にあります。今あるもの(例えば家)に工夫を加えて現金を得る。そんなイギリス人のサバイバルな考え方や発想が実はこの本の根底には流れています。

 これからの時代を生きるにはサバイバル的な発想は不可欠なことだと思います。本書は一見するとコンパクトで贅沢なインテリアを紹介した本に見えますが、その根底にあるイギリス人の「生活思想」、必要にして十分な「British small」を感じとっていただければうれしいですね。

 

(以上)

 

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井形 慶子

いがた けいこ

1959年長崎県生まれ。作家。大学在学中から出版社でインテリア雑誌の編集に携わる。その後、世界100ヶ国に流通する外国人向け情報誌を創刊。28歳で出版社を立ち上げ、英国の生活をテーマにした月刊情報誌「ミスター・パートナー」を発刊する。

同誌編集長。50歳でロンドンに拠点を持つ。渡英歴は100回を越える。

著書に、『古くて豊かなイギリスの家 便利で貧しい日本の家』『老朽マンションの奇跡』(新潮文庫)、『日本人の背中』(集英社)、『イギリス式 シンプルライフ』(宝島社)、『イギリス流 ふつうに生きる力』『イギリス式 おとな旅の流儀』『日本に住む英国人がイギリスに戻らない本当の理由』(小社刊)他多数。

近著は『突撃!ロンドンに家を買う』(ちくま文庫)、『なぜイギリス人は貯金500万円で幸せに暮らせるのか イギリス式中流老後のつくり方』(講談社)


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  • 2016.10.08