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「リベラル」のない民主主義なんて、誰も見たくない。

民進党代表選挙から考える「党派」と、その対立

民主主義に必要な「リベラル」という存在

 現代日本の自民党、民進党という二つの大きな政党を比べてみよう。たしかに、二つの政党の間には、それぞれの支持基盤が求める利益などの実質的な要因の違いもあるかもしれない。しかしどちらかと言えば、自民党と対抗するための政党として、非自民、反自民の受け皿としての立ち位置と求心力があるのが、今の民進党の実情であろう。そのため、特に自民党に対する民進党という観点から見れば、二つの政党の違いは個人的な敵対心に基づく党派の違いとして分類できるのではないだろうか。

 そうであるのならば、二つの党派の間の実質的な要因の違いがあるとすれば、政党や党首などへの愛着心の違いとなっていくだろう。いずれにしても、党派間の対立は激しくなる一方で、それぞれの党派が追求する利益や原理の違いは見えにくくなっていく。

 民主主義とは、多様な立場や考え方を持つ人々が、互いに尊重し合いながら、議論を深めていくものである。党派間の対立には弊害も多いが、政党が主体となって運営される現代の議会では、社会の多様性を反映するためにも、多様な党派がなければならない。

 たしかに、現在は「リベラル」よりも「保守」のほうが一般的にウケが良い。民進党内における保守派の存在感も無視できなかったのだろう。それにしても、実質的な要因の違いを消してしまい、単に非自民、反自民のためだけの政党として位置づけていては、二大政党間の対立は個人的要因に基づく感情的な対立でしかなくなり、原理の違いから生じる政策の違い、それぞれの人が置かれる立場における利益の違いから、二つの党派のうちどちらかを選ぶということができなくなってしまうのではないだろうか。

 いろいろな新党が生まれても、結局どの政党を支持すれば良いのかわからなくなってしまい、無党派層が増えていくという要因の一つが、こういったところにも見られるのである。

 民進党の前身である民主党はどちらかといえば「リベラル」な人々の支持を得てきた政党だというイメージがあったが、あるいは民進党というのは本当に保守政党であり、「リベラル」ではない道を目指すのかもしれない。それで、支持を伸ばせるか否かは定かではない。だが、そうなると最初に述べたような「リベラル」な志向を持つ人たち、過半数を占めるわけではないにせよ少なからぬ数の人たちは、国会に多くの議席を持つ政党の中に選択肢を失ってしまうだろう。

 選択肢を失えば、投票への意欲も、政治参加の意欲もなくなってしまうかもしれない。すると、民主主義に必要な多様性も失われるのである。そうならないためにも、たとえ今の時点では多くの支持を集められないとしても、敢えて「リベラル」を掲げるような政党の存在も必要なのではないだろうか。

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大賀 祐樹

おおが ゆうき

1980年生まれ。博士(学術)。専門は思想史。

著書に『リチャード・ローティ 1931-2007 リベラル・アイロニストの思想』(藤原書店)、『希望の思想 プラグマティズム入門』 (筑摩選書) がある。


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