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アメリカ野球が見る「KOSHIEN-甲子園-」
(上)最大のメジャーリーガー産出国・ドミニカが「投げない理由」

熱投と甲子園。今こそ考えたい日本野球の在り方。

■お金のためだから、投げない

 元マイナーリーガーで、現在は「5 esquinas」というテレビのレポーターを務めるドミニカ人記者のフランシス・ファンティーノ氏がそう述べる。その言葉から見えてくる通り、高校野球に限らず、日本とドミニカ共和国ではそもそもベースボールに対する考え方に大きな違いがある。

 プロになれば一般のサラリーマンより遥かに高給が手にできるのはもちろん事実でも、日本では〝お金持ちになりたい〟という理由で野球を真剣にやる子どもは少ないのではないか。それよりも、純粋にベースボールが好き、あるいはその鍛錬の過程で自分を磨きたいといった理由が多いだろう。そして、その究極の舞台としてプロ野球、メジャーリーグが存在する。

 一方、ドミニカ共和国では完全にビジネスの一端。2012年の国内総生産557億ドルが熊本県とほぼ同じ経済規模であるドミニカは、お世辞にも裕福な国ではなく、ベースボールは貧困を抜け出す手段である。

「学校を卒業したって、何らかの強力なコネクションがない限り、ドミニカではまともな仕事に就くことはできない。選手になって10万ドルでももらえれば、それはドミニカでは1億ペソに値し、家族を養い、家だって買える。新しいビジネスを始めることも可能になり、王様のような暮らしができる。だからドミニカではカネを稼ぐ最善の方法はベースボールをプレーすることなんだ。それゆえにドミニカの選手たちの多くはステロイドを手にする。4000万ドルの契約を手にできるなら、名誉とか、他のことなんかどうでもいいんだよ」

 痛烈な意見だが、だからこそ、将来を損なう可能性がある日本のような投球練習や過酷な試合は行なわないのだろう。

 ドミニカンは往々にして陽気で無頓着ではあるが、ベースボールに対する情熱は本物に思える。野球が何よりも優先される正真正銘の〝ベースボール・カントリー〟。他にも多くの娯楽が存在するアメリカ、日本とは野球への熱狂の度合いが違う。だからこそ、甲子園というものに対してもう少し興味を示すかと思ったのだが……。そんな彼らでも、カネにならないアマチュアの高校野球に全力を傾ける日本のカルチャーは理解し難いようだ。

 一部の例外を除き、中学、高校と進み、その部活動で野球をプレーする日本とは、ドミニカ共和国の選手育成システムはそもそも完全に異なる。

「12歳までに才能を認められると、ドミニカではトレーナーが食事や生活の面倒を見て英才教育を施す。8時から12時くらいまで学校に行き、その後の時間はベースボールの練習にあてるんだ。そして16歳になってアカデミーとのプロ契約を結ぶのが目標になる。プロ契約を手にした選手はもう学校には行かず、アカデミー内の学校で学ぶ。その時点でもう勉強なんて忘れるけどね。学校で学ぶよりも、野球で家族を養うことが唯一最大の目的になるんだ」

 ファンティーノ記者のそんな説明を、ESPNラジオ・ドミニカーナでアナリストを務めるケビン・カブラル氏が引き継いでくれた。

「すべてのメジャーリーグチームはドミニカにアカデミーを開いていて、ほとんどのドミニカの少年たちは16、17歳で契約する。そして入所直後に球数制限が設けられ、とても注意深く育てられる。彼らはまだ成長途上だから、上手く育成することが重要になる。マイナーで先発として起用される19〜21歳の投手でも、3イニング程度しか投げさせなかったりね。投資される〝商品〟なんだから、注意深く育てなければならない」

 もともとプロで金を稼ぐ目的で育てられる選手に、10代の間から燃え尽きるほどの球数を投げさせることなどもってのほか――。

 データなどを探すのは難しいが、ドミニカ出身の若い投手たちもアメリカ同様に、丁寧に、あるいは過保護に育てられるようである。メジャーリーガーを生み出すことが唯一最大のゴールなのであれば、その国と同じ育成方法になるのは当然なのだろう。<(下)に続く>

※一部見出しは編集部作成

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