とまあ、チューブ吐きの魔力について見てきましたが、ほかの吐き方でも、リスクがともなうことはすでにいくつか触れたとおりです。そこに付け加えるとすれば、低カリウム血症というものがあります。極度の栄養不足によって起きるので、拒食症全般で警戒が必要ですが、とくに腹筋吐きのような激しい嘔吐をしているケースが危険だとされています。

 初期症状としては、手足のだるさや不整脈、ひどくなれば心不全を起こして死にいたることもあります。これは筋肉や心臓の働きに重要なカリウムが、嘔吐によってさらに失われるため。予防には、カリウムを多く含むバナナやアボカド、カボチャ、あるいはスポーツドリンクなどで補給しておくことが有効です。嘔吐する瘦せ姫は、吐かずに食べることを「吸収」と呼んだりしますが、この栄養素についてはなるべく吸収することが望ましいでしょう。

 また、発症してしまった場合、早く気づくことが大切です。ある瘦せ姫は「体全部が心臓になったみたいな」苦痛に襲われたあと、救急搬送されました。間一髪のタイミングで一命はとりとめたものの、小説『鏡の中の孤独』(スティーブン・レベンクロン)には、嘔吐中に低カリウム血症を起こし、心臓発作で亡くなる少女が出てきます(註1)。

 著者はカレン・カーペンター(『瘦せ姫 生きづらさの果てに』本書145頁など参照)の治療にもあたった高名な心理カウンセラー。死にいたるまでの描写にも、ある程度の信憑性は確保されていることでしょう。その最初の兆候は「上唇がしびれ」「太ももの筋肉がけいれんし」「指先がビリビリしてきた」というものです。

 ただ、少女は異常を察しながらも「高カロリーのピーナッツバター」を排出するため、嘔吐を続けます。この感覚、理解できるという人も少なくはないでしょう。太るくらいなら死んだほうがマシ、というのが、瘦せ姫の矜持(きょうじ)なのですから。

 それでもやはり、嘔吐中に死亡することは避けたいという人には、可能な範囲で安全かつ健康的な方法の選択をおすすめします。

(註1)『鏡の中の孤独』スティーブン・レベンクロン(集英社文庫)

※「不完全拒食マニュアル」のその他のやり方や詳細は、『瘦せ姫 生きづらさの果てに』(KKベストセラーズ刊)をどうぞご覧ください。明日もBEST TIMESコラムをお楽しみに!

 

 【著者プロフィール】 

エフ=宝泉薫(えふ=ほうせん・いずみ) 

1964年生まれ。早稲田大学第一文学部除籍後、ミニコミ誌『よい子の歌謡曲』発行人を経て『週刊明星』などに執筆する。また健康雑誌『FYTTE』で女性のダイエット、摂食障害に関する企画、取材に取り組み、1995年に『ドキュメント摂食障害—明日の私を見つめて』(時事通信社・加藤秀樹名義)を出版。2007年からSNSでの執筆も開始し、現在、ブログ『痩せ姫の光と影』(http://ameblo.jp/fuji507/)などを更新中。