にもかかわらず、そういった葛藤(かっとう)の本質は世間からなかなか理解されません。医学的な「健康」こそが幸せの必須条件だと考えるような人たちにとっては、想像の範囲を超えているのでしょう。それでも瘦せすぎていれば、周囲から心配くらいはされますが、かといって「生き方」のひとつとして認められることはなかなかありません。

 まして、食事の制限や嘔吐などによる排出がうまくいかず、健康的な外見だと、周囲はさほど心配しません。そんなさまざまな「つらさが伝わらないつらさ」に瘦せ姫は苦しめられているのです。

 そのつらさは、本人にしかわからないものでしょう。ただ、そういった姿を見て、想いを寄せることはできます。特に、インターネットが発達し、SNSのような表現の場が生まれたことで、瘦せ姫の葛藤はよりダイレクトに感じられるようになってきました。それ以前にも、治療者や回復者の書く本などでうかがい知ることはできたものの、そこにはやはり大きなフィルターがかかってしまいます。それが今、本人自ら現在進行形の葛藤をインターネットで表現するようになってきたことで、局面は劇的 に変化しました。

 この本はそんな瘦せ姫の葛藤を記録し、彼女たちの本当の魅力を伝えることで、世間における負のイメージを変えることも目的としています。この世の中に生きづらさを感じ、居場所がないと思ってしまいがちな女性たちにとって「瘦せ」はどこにもない場所へのあてのない旅でもあるのです。

 とはいえ、少数派がいつまでも少数派だとは限りません。摂食障害は性的成熟をおそれる病だともされますが、それは日本の少子化が象徴するように、種としては衰弱しつつある人類の未来の先取りだともとらえられます。そういうところまで、暗示できたらいい、と考えています。

 なお、瘦せ姫に魅力を感じる者は日本にも海外にも少なからずいます。が、瘦せ姫ファンが書くラブレターともなると、世界初かもしれません。それゆえ、これは「どこにもない本」となりうるはずです。この本が瘦せ姫自身の何らかの癒しにつながることを願いつつ、そうでない人にも、彼女たちの魅力と「つらさが伝わらないつらさ」に気づいていただけたら、幸いです。

(註1)『美女たちの神話』森瑤子(講談社文庫)。オードリー・ヘップバーンの章の末尾に引用されている。訳者は示されておらず、森自身の訳と思われる。

※明日からは本書『瘦せ姫 生きづらさの果てに』から抜粋して内容を紹介していきます。

 

【著者プロフィール】 

エフ=宝泉薫(えふ=ほうせん・いずみ) 

1964年生まれ。早稲田大学第一文学部除籍後、ミニコミ誌『よい子の歌謡曲』発行人を経て『週刊明星』などに執筆する。また健康雑誌『FYTTE』で女性のダイエット、摂食障害に関する企画、取材に取り組み、1995年に『ドキュメント摂食障害—明日の私を見つめて』(時事通信社・加藤秀樹名義)を出版。2007年からSNSでの執筆も開始し、現在、ブログ『痩せ姫の光と影』(http://ameblo.jp/fuji507/)などを更新中。