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人生を軽快に生きるコツ ~「応無所住而生其心」の教え~

SNSやスマートフォンの普及が生んだ現代病「つながり疲れ」。それをうまく解消しつつ、人生をより生きやすくするコツを、お釈迦様は教えていた。

 

 ソーシャネットワーキングサービス、いわゆるツィッターやフェイスブックなどの「SNS」のことで、ほとんどの方がご存じだと思います。私が高校生や大学生の時には想像もしなかったこの便利なもので、今では昔から当然のように存在していたと思えるくらい、常識化しています。

 疎遠になっていた友人や知人に再び出会うチャンスができたり、行ったことのない世界の景色、美味しいお料理屋さんの写真をみることができたり、共通の話題や趣味でグループをつくり、盛り上がることができるといった、人生を豊かにしてくれるコンテンツが満載です。

 いまやインターネットやスマートフォンなしでの生活は考えられないくらいです。しかし一方で、多岐にわたる情報によって迷いが生じたり、SNSが原因で人間関係がこじれてしまったり……と便利になりすぎた現代だからこそ発生してしまう問題もたくさん見受けられるようになりました。「つながり疲れ」と申しましょうか、投稿に対しての反応が、義務になってしまい、楽しいはずの「つながり」が、逆に苦しみになってしまうのです。

お釈迦様が説いた教訓

「応に住するところ無くして、其の心を生ずべし」。この句は、「金剛経」というお経の眼目、いわゆる一番大事なところで、中国の名僧である六祖慧能禅師の禅門に入るきっかけとなった句と言われています。

「住する」とは、心がとらわれること、執着(しゆうじゃく)することをいいます。仏教では「執着」のことを「しゅうじゃく」といいます。ここで肝心な所は、「住するところがない」こと、つまり「心は自由自在に働きながら、それでいてとどまるところがない」ということです。

 また、この句はお釈迦様が十大弟子のひとり、須菩提(すぼだい)に「人生を軽快に生きるためのコツ」を説かれたものです。是非参考にしたいですね。

 ここで、「心の置き所」について考えてみましょう。心をどこに置いたらいいか。江戸時代の禅僧・沢庵和尚は次のようにおっしゃいます。「(心を)どこかに置こうとしなければ、どこにもあるということ。どこに置こうかと考える時、既に心の置き場に心がとらわれているということになる」と。

 この便利で人生を豊かにしてくれるSNSから目をそらしてしまうのも、何かもったいない気がします。このSNSと上手く付き合っていくことができたなら、どんなに素晴らしいでしょう。そのためには、SNSの情報に心を置いてはなりません。

 心を置いてしまうと、それは「とらわれ」となり、「苦しみ」につながってしまいます。一つ一つの情報をしっかり受け止めながらも、楽しいことがあっても、悲しいことがあっても、それを引きずらないことが大事なのです。心をどこにも置かなければ、どこにも心がある。このように生きることができれば、自分自身の人生をしっかり味わうことができる。つまりこれこそ、お釈迦様が示された「 応無所住而生其心」の心、人生を軽快に生きるコツではないでしょうか。

 私の龍雲寺での坐禅会も是非、同じ自由でも「自由勝手ではなく『自由自在』」でゆきたいものです。

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細川 晋輔

ほそかわ しんすけ

龍雲寺

住職

ほそかわ・しんすけ。1979年、東京世田谷生まれ。元・臨済宗妙心寺派宗務総長、前・花園大学学長、細川景一氏の次男。元臨済宗妙心寺派教学部長で、『般若心経入門』(詳伝社)で第1次仏教書ブームのきっかけをつくった松原泰道の孫。2002年佛教大学人文学部仏教学科卒業後、京都にある妙心寺専門道場にて九年間禅修行。現在、東京都世田谷区にある臨済宗妙心寺派・龍雲寺住職。花園大学大学院文学研究科仏教学専攻修士課程修了。妙心寺派宗議会議員。妙心寺派布教師。


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