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読み切りマンガ、1作を載せるのに1600万円かかる?

新人漫画家にチャンスが少ない理由

いまや、ウェブで誰もがマンガを公開できるようになったにもかかわらず、なぜ漫画家という職業は相も変わらず「狭き門」なのでしょうか? 漫画家・山田玲司に聞く、漫画業界の最新事情と、業界が抱える問題点とは?

漫画家と編集者の溝

イラスト/山田玲司

 漫画家が単行本を出した時に貰える印税は、例外はあるものの「基本的に10%」と昔から決められている。
 漫画家の中には「読者は自分の描いた漫画が目当てで本にお金を払ってくれているのだから、その数字は少なすぎる」と言う人も多いのだけれど、何しろ紙媒体はコストが凄まじい。印刷、製本、輸送、販売、と、諸々の人件費がかかりまくるので、WEBの世界とはまったく違うのだ。
 もちろん大手出版社の正社員である編集者の人達は普通のサラリーマンと比べて多くの収入を貰っているので、ここで収入の安定も保証も何もないまま過酷で地味な漫画制作という日々を生きている「漫画家」とは大きな溝があるのは当然だ。
 そんなこんなで、本ができる過程にかかる予算の話を知らない漫画家達は、良い服を着た編集者を見て「あいつら編集者は俺たちの稼ぎを多く取っているんじゃないか……」「ピンハネされてるだろう」なんて思ってしまうわけです。

 編集者との溝を作るもう一つの問題は、漫画家が彼らの普段の暮らしを知らないことにもあります。
 漫画家と編集者が打ち合わせをして「じゃあこんな感じでやりましょうか」みたいになった後は、漫画家はひたすら過酷な漫画制作に入ります。
 絵だけでも苦しいのに、ネームというストーリーをコマの流れに書き起こす作業を何度も繰り返すので、本当に辛い時間は打ち合わせの後すぐに始まるのです。
 ところが編集者は「じゃあ、あとはよろしくお願いします」と言って帰っていく。漫画家達は「あいつらこの後何の仕事があるんだ?」と思う。
 それはそうだ。打ち合わせは終わったし、彼らの仕事はこっちが原稿を上げないと基本的に「無い」じゃないか、なんて感じだ。
 そんな時に編集者は連日飲みに行っている、なんて噂を聞いたり、誰それという有名人と飲んだらしい、なんて噂まで回ってくることがある。

 こういうのは、多くが漫画家が抱える「被害妄想」の類だったりするんだけど、中には本当の話も入ってくる。こうなると「あいつら、こっちが必死になって働いてる時に何だよ……」なんて感じになったりして面倒なことになるわけです。
 確かに編集者だって飲んだり遊んだりもするけど、打ち合わせと漫画が出来てからの入稿作業以外にも編集者には仕事は山ほどあるし、結果(売り上げ)が出ないと編集部から飛ばされる事も当たり前なので、「打ち切り即失業」の漫画家ほどではないにしろ、それなりの苛酷さは抱えてもいるのだ。
 おまけに「売れっ子漫画家」や「大御所漫画家」には、漫画を描かないで逃げまわる人もいて、これがまた両者の溝を深めていく。
 そんなわけで、漫画家が集まると編集者の悪口で盛り上がり、編集が集まれば漫画家の悪口で盛り上がっているのが定番となっているのが漫画業界だ。

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山田 玲司

やまだ れいじ

マンガ家。1966年東京都生まれ。小学生の頃から手塚治虫に私淑し、20歳でマンガ家デビュー。オタクがモテるまでの道のりを描いた『Bバージン』(小学館)で一気にブレイク。女性のための恋愛コミックエッセイ『モテない女は罪である』(大和書房)や『AM』での恋愛コラム『山田玲司の男子更衣室へようこそ』などを手がける。著名人へのインタビューマンガ『絶望に効くクスリ』シリーズや、『非属の才能』(光文社新書)といった新書でも知られる。どの作品にも、「どこにも属せない感覚」を持った若者たちへのメッセージが込められている。ニコニコチャンネル「山田玲司のヤングサンデー」を毎週水曜日に放送中。 

公式サイト http://yamada-reiji.com/

Twitter:@yamadareiji


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