池上正樹×斎藤環が語る、「たとえお節介でも、ひきこもりを指摘し続けるべき理由」 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

BEST TiMES(ベストタイムズ) | KKベストセラーズ

池上正樹×斎藤環が語る、「たとえお節介でも、ひきこもりを指摘し続けるべき理由」

ジャーナリスト池上正樹×精神科医斎藤環の対談(3/3)

斎藤 行政には何も期待できないですね。そうはいっても、和歌山県田辺市の目良さんとか、秋田県藤里町の菊地さんとか、どっちも行政の人ですけどセンスのある人が一人居るだけでも、行政のインフラを活用してかなりのことができるのは事実です。ただ、それがその人一代限りになることも多いので、どうやって継続するかということが大事だと思います。

池上 大阪府豊中市の勝部さんも、地域でいい取り組みをされています。

斎藤 どういった方でしょうか。

池上 社会福祉協議会の方です。豊中方式といって、街・地域を教育することで、ひきこもりという問題を顕在化させて、その居場所づくりを行っています。

斎藤 いいものはいろいろあるんですが、それが地域の文化になっちゃって、なかなか広まらないという問題もあります。使えるものは使って、共有していく、広く知れわたることが大事ですね。

◆必要とされるニーズの掘り起こし

池上 斎藤先生は、『ひきこもり文化論』でひきこもりを肯定する立場と治療する立場のジレンマがあると書かれていましたが。

斎藤 肯定、そうですね。病気と決めつけないとか、一義的に悪いと決めつけないとか、そうでありつつやっぱり苦しむ人はいるというのも事実なので。これはセクシュアル・マイノリティの問題と似たところが結構あります。つまり、それ自体は否定されてはいけない存在という意味ですね。とはいえ、やっぱりLGBTで苦しんでいる人もいるわけで、そういう人たちにもケアが必要です。社会的受容の経緯は、よく似ています。

 ゲイは、イギリスだと60年代までは犯罪で、1970年代までは病気として扱われていました。そして今は権利というか個性のひとつ、という認識に変わってきましたよね。ひきこもりもかつて穀潰しなどと否定的に言われていた時期を経て、次に病気という認識に変わった。まあ、今もまだ病気の時代かもしれませんけど。やっぱり一義的に価値判断することは避けたいなと思います。それ自体は問題ではないかもしれませんけど。そこから派生してくる問題に対しては支援が必要になりますから。

池上 関わりを求めている人もいますからね。

斎藤 実際います。支援で関わるなかで変わっていく人もいるわけです。関わる前は支援なんていらないという人も、いざ関わってみたら支援してほしいという人もいる。それをニーズの掘り起こしと言っています。いささかお節介かもしれませんが、本人がいらないと言ったからいらないのだと単純な視点だけではなく、そういう視点をある程度持っていないとどうにもならない。

池上 社会全体に言えることですね。

◆これからの「ひきこもり」問題

 

斎藤 ひきこもりは日本特有ではなくなってきています。マイケル・ジーレンジガーの本みたいに日本人の病理がもたらしたという人もいますけど。韓国にたくさん存在しているという現実がある。イタリアも最近増えてきている。スウェーデンも多いと聞きますが、それは注目されているのか多いのかはまだわかりません。フランスも、日本の名古屋大学と共同研究を続けています。もう、日本の「ひきこもり」ではなくなってきている状況だと思います。

 私は日本文化ということではなく、家族形態との関連性で見るのが一番いいと思っています。これは主にパラサイトの問題との関連ですね。成人してからも親と同居し続けるということが容認されやすい家族文化がある地域では、ひきこもりが増える傾向にあります。実際、日韓はそうです。同居率70%以上の国というのは日本と韓国、イタリア、スペインです。それぞれの国でひきこもりが問題化しているということは、同居率とかなり密接な関係がある。また、同居率が高いということは何を意味しているかというと、就労などの社会参加ができなかった若者がホームレス化しにくいってことです。家から追い出されませんから、ヤングホームレスがいない。

 日本の統計しか知りませんけど、日本では若いホームレスがすごく少ない。先進諸国の中で、例外的なほど少ないです。最近増えているという指摘はありますが、それでもまだ少ない。人口1億2000万で、若いホームレスが1万人いないというのは、ありえないくらい少ないんです。アメリカ、イギリスだったら、イギリス25万人、アメリカ100万人っていう説もあります。同居が容認されればホームレスが減るけれども、その代わり社会から排除された若者がひきこもるしかなくなってしまうという状況になる。これは完全に構造的な問題と考えていいと思います。構造から変えるとしたら、もう同居を辞めるしかない。同居をいつ辞めるかというタイムリミット設定して子育てするというのが当たり前になればひきこもりは減る。ただそれはホームレスが増えるかもしれないという、副作用と背中合わせです。いいことずくめとはなかなかいきません。最終解決のためには、若い世代が全員社会包摂されるような仕組みを作るしかないですが、それはどの国も成功したことがない難事業です。

次のページ世界に広まる「ひきこもり」

KEYWORDS:

オススメ記事

RELATED BOOKS -関連書籍-

ひきこもる女性たち (ベスト新書)
ひきこもる女性たち (ベスト新書)
  • 池上 正樹
  • 2016.05.10
ひきこもり文化論 (ちくま学芸文庫 サ 34-1)
ひきこもり文化論 (ちくま学芸文庫 サ 34-1)
  • 斎藤 環
  • 2016.04.06