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誰も教えてくれない、「グローバル化」の本質

現在観測 第34回

◆価値の相対化で見えてくるもの  

桜島の眺め

 身近な当り前も価値の相対化の中では、価値を発揮する時がある。
 自分の今住んでいる鹿児島市からは桜島を見る事ができる。生まれた時から毎日見ていた。高校まで僕にとってその山は、灰を降らせるだけの迷惑な山に過ぎなかったが、東京の方に進学し、山のない国イギリスに住んだ後に久しぶりにその山を見ると、町から海を隔てて見えるその雄大な姿に見とれてしまう。銭湯=温泉で各町内に一つは天然かけ流しの温泉があるという当たり前は、国内でも世界的にも当たり前ではなかった。
 閉ざされた世界の中で、価値観の絶対化が起こった場合、大きな見落としが生まれてしまう。価値の相対化する事で、そのものの価値や本質が見えてくる。

◆グローバリゼーションはいずれローカリゼーションに集約される

 さて、価値の相対化を一度する事によりそのものの本質が見えたとしても、ここから何かを行う場合。例えば新たな事業を興したり、課題の解決に向けて活動を始める場合、グローバリゼーションとは逆のローカリゼーション(現地化)が必要となる。そもそもグローバル化政策の発端の一つは、海外拠点の円滑な設立と設置・運営ができる人材の不足にある(産学人材育成パートナーシップ グローバル人材育成委員会報告書 2010年)。
 例えば、企業のアフリカ進出と言ってもアフリカのどの国であるか? さらにどの地域に進出するかで法律も言葉も違えば宗教、人種、慣習、価値観も全く違う。見誤ると、現地拠点の設立と設置はできても根差した継続的な運営は難しくなる。
 グローバル化と言っても数学、自然科学の研究のように普遍的な事ではない限り、何かを行う際は最終的にはどこかにローカライズ(現地化)させる事が求められる。実際に今地元の鹿児島とお隣の宮崎で仕事をしているが、マクロに見たら同じような地域に見える二つの県の県民性や状況は違う。同じやり方では上手くいかない事が多い。このような小さな違いを嗅ぎ分け、事業を(もっと言うと話し方一つでも)ローカライズできるかによって継続性と成長スピードに違いが出る。結局のところ、場所が海外だろうと国内だろうと、ローカリゼーションの幅と精度を上げる事が求められるのである。
 

 グローバル化と言われている時代。言葉のイメージのみに流されず、その本質的な意味のみならず、それと一見相反する言葉である「ローカル化」のバランスを失わないように気を付けなければならない。グローバルという言葉に捕らわれ過ぎると、聞こえは良いが宙に浮いた議論になってしまい、一方、ローカルという言葉にとらわれ過ぎると物事の価値の見極めが難しくなる。外と内のように相反する概念のように見えるが、上で述べたようにこの二つを両立させ、いかに使い分けるかが求められる。

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岡本 尚也

おかもと なおや

物理学者・社会起業家

1984年鹿児島県生まれ。2008年慶応大学理工学部物理情報工学科卒、2010年同大大学院基礎理工学専攻修了、2011年より(公財)船井情報科学振興財団奨学生としてケンブリッジ大学物理学部キャヴェンディッシュ研究所博士課程へ留学。在学中、筆頭著者としてNature Materials等、世界トップジャーナルに論文が掲載される。2014年博士号取得後、オックスフォード大学近代日本学部Nissan Institute of Japanese Studiesにて近代日本社会の研究、特に教育社会学を学んだ。

現在は地元鹿児島に戻り、『地域を起点に世界につながる「教育」と「事業」をつくる』NPO法人グローカルアカデミーを設立し、教育や研究活動、コンサルタント業務を行っている。

東洋経済オンラインにて「オックスフォード×ケンブリッジ 英国流創造と学びの技法」を連載中。2016年秋に新興出版社啓林館より「課題研究メソッド(仮題)」を出版予定。


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