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ヘイトスピーチの”本体”  差別デモの「温床」とは?

「ヘイトスピーチ解消法」の先にあるもの

・「ヘイトスピーチ」の”本体”

 しかし、このような「ヘイトスピーチ解消法」の成立・施行をみても、筆者は根本的には「ヘイトスピーチ」の根治的治療には至らないと俯瞰する。なぜか。いわゆる「ヘイトスピーチ」を行うネット住民の理論的支柱に対し、全くなんのメスも入れられていないからである。
 彼らの理論的支柱とは、いわゆるこの国の一部「保守論壇」にある。彼ら「ヘイトスピーチ」の当事者のほとんどは、その言説の根拠をこの国の「保守論壇」から発せられるある種の表題的(ヘッドライン)言説に寄生しているのだ。
 彼らは口々に、「朝鮮人は嘘つき人種」「中国人は全員犯罪者、強姦魔」と叫んでいる。彼らの叫びの根拠、そのおおもとの根拠はどこなのか、考えた事があるだろうか?
 彼らの愚にもつかない低劣な罵詈雑言の根拠は、彼らが寄生する「保守系文化人」や「保守系言論人」から発せられたネット上の言説に依拠している。
 彼ら「保守系文化人」や「保守系言論人」は、「朝鮮人は嘘つき人種」「中国人は全員犯罪者、強姦魔」とまでは明示しないものの、もっともらしい伝聞や体験、出典不明なエピソードなどを用いて、さも「朝鮮人は嘘つき人種」「中国人は全員犯罪者、強姦魔」であることを、その著書のタイトル(或いはその中の扇情的な目次)や、自身が出演する動画のタイトル、発言で以って修飾している。
 ヘイトスピーチを行う「ヘイトスピーカー」らは、このような「保守系言論人」や「保守系著名人」の著書のタイトルや目次、あるいは彼らが出演する短いネット番組の動画(おおむね、その時間は2分~30分の間である)の中にある扇情的で攻撃的な文言を拾い上げて、自らの排外的言説に結び付けている。これを「ヘッドライン寄生」と呼ぶ。つまり、その著書や発言を吟味せず、内容を斟酌しないまま、扇情的な見出し=ヘッドラインのみを観て、ヘイトスピーチの根拠に組み込んでいるのだ。

 

・「ヘッドライン寄生」、保守論壇との共依存

 実際に彼ら「保守系言論人」の書いた書籍を読んでみると、いかにも「差別」とは遠い記述である。しかし「ヘッドライン」のみを観測する「ヘイトスピーカー」にとっては、書の内容よりもタイトルと目次、そして短い動画情報がすべてである。なぜ彼らが書籍のヘッドラインを知るのかといえば、アマゾンの「商品情報」の項に委細が明示されているからだ。
「保守系文化人」や「保守系言論人」は、自らの著作や出演動画が、「ヘイトスピーカー」らによる寄生を受け、都合のよいように脚色され、つぎはぎされていることを当然承知している。それを承知したうえで、彼らからの寄生を黙認している。それが自らの商業上の利益につながると確信しているからだ。
 つまり、「朝鮮民族の歴史」を至極学術的に記した書籍でも、その書籍タイトルや目次が、たとえば「息を吸うように嘘をつく朝鮮人」であることを以って、彼ら「ヘイトスピーカー」の思想的根拠として寄生されている、ということである。そしてその寄生されている事実そのものを、彼ら「文化人や言論人」は追認し、彼らから一定の購買力を感じているからこそ、「ヘイトスピーカー」への追撃や攻撃を、決してしようとはしない。

 インターネット上で「ヘイトスピーチ」が量産される根源は、こういった理屈なき「ヘイトスピーカー」が、権威としての「保守系文化人」や「保守系言論人」に寄生することによって発生するある種のシュチュエーションを、寄生される側の宿主、つまり「保守系文化人」や「保守系言論人」が追認することによる共依存関係なのである。
 この根深い構造は、私の歴代の著作等に記述したとおりであるが、単なる「ヘイトスピーチ解消法」の成立・施行だけでは、根治療法にはなりえないと考えるのはこのためである。
「ヘイトスピーチ」の”本体”は、公の空間で外国人排斥を叫ぶ人々ではない。彼らは原因ではなく結果なのであり、彼らに思想的恩典を与えている一部の「保守系文化人」や「保守系言論人」の粗悪で、根拠なき、排外主義につながる言説こそが「ヘイトスピーチ」の”本体”そのものなのである。

「2・26」事件の首謀者は陸軍皇道派の青年将校であったことは間違いない。しかし、その理論的支柱はどこであったのか。それは、北一輝を中心とする国家社会主義者である。北は反乱の精神的支柱とされて死刑になった。
 では現在の「ヘイトスピーカー」と、「保守系文化人」や「保守系言論人」の関係はどうか。路上に踊る「ヘイトスピーカー」をもぐらたたきのように規制しても、「根治」という意味では効果はない。真の巨悪はその背後にいるその人々なのである。

 

・ゆがんだ「保守論壇」の更生を

「アンチ在日コリアン」、「アンチ中国人」で稚拙な「保守商売」をしてきた、安直で粗製乱造された「保守系文化人」や「保守系言論人」が、「ヘイトスピーカー」の理論的、精神的支柱になってきたのは明らかだ。
 彼ら(往々にして彼女らは、とも言う)は法で規制されることもせず、今日ものうのうと、根拠不明なデマと妄想を、一部のブログやSNS、そして保守系CS放送局などで垂れ流している。
 彼ら「ヘイトスピーチ」の本体は、客観的に見てあまりにトンデモ、陰謀論的なので大衆的なテレビ、新聞、ラジオにはあまり登場しない(登場できない)。
 しかし市井の耳目を集めないからといって、その影響力を軽視することは罷りならない。一部でカルト的人気を誇る彼ら「保守系文化人」や「保守系言論人」の頒布する動画等こそが、「ヘイトスピーチ」の温床であり、”本体”なのだ。彼ら、彼女らを許してはならない。
 ゆがんだ「保守論壇」の更生こそが、「ヘイトスピーチ解消法」の立法・施行よりも真に重要であろう。

 

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古谷 経衡

ふるや つねひら

評論家、著述家。1982年北海道札幌市生まれ。立命館大学文学部史学科卒。インターネットと「保守」、メディア問題、アニメ評論など多岐にわたって評論、執筆活動を行っている。主な著作に、『知られざる台湾の「反韓」』(PHP研究所)、『もう、無韓心でいい』(ワック)、『反日メディアの正体』『欲望のすすめ』(小社)など。

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