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SNSのデマや著名人の偏見にだまされないための思考法

齋藤孝さんの最新刊『使う哲学』より、日常に使える哲学の思考法を伝授します。

ベーコンの「帰納法」を身につける

 では、偏見、先入観、思い込みといったイドラを退け、本当の知を獲得するにはどうしたらよいのでしょうか。そこで、ベーコンは「帰納法(きのうほう)」という方法を提案しました。

 帰納法は、実験や観察、経験によって得た個々の具体的な事例から、一般的な法則を導く方法です。

 たとえば「キリンの体はどんな模様をしているか」を知る場合、1頭や2頭程度を見て判断しないで、10頭、20頭、30頭……とできるだけ多くのサンプルを集めて、一般的な法則を導きます。

 あるいは、武田信玄は死んだ、上杉謙信も死んだ、織田信長も死んだ、豊臣秀吉も死んだ、徳川家康も死んだ。だから、人間は死ぬ。……このように考えるのも帰納法的思考です。

 今の時代は、意外に帰納法的思考が欠落しているかもしれません。

 たとえば、2〜3人程度の若者が少し悪ふざけをしたところを見て、「だから、今どきの若者はダメなんだ。まったくけしからん」などと、したり顔で話す中高年の人がいます。でも、それでは、あまりにサンプルが少なすぎます。

 あるいは、新入社員の1人が挨拶をしなかったことに腹を立て、「今どきの若者は挨拶もできない。まるでなっていない」などと決めつけるのも、やはり早計です。

 ベーコンであれば、こういう中高年に対し、「それはイドラだよ。もっとたくさん、しっかり見てから、判断しなさい」と言うかもしれません。

 とはいえ、どれだけの数を見たり経験したりすればよいのか、という問題もあります。できるだけ多くのサンプルといわれても、限度はあります。となると、ある程度のところで、ある程度の法則を導き出して、その後、修正を加えていくという方法が現実的に思えます。

 偏見、先入観、思い込みといったイドラに引っかかってしまうと、正しい知識が得られず、適切な判断ができなくなってしまうかもしれません。そうしたとき、ベーコンの思考法は役立ちます。

 それは思い込みにすぎないんじゃないか。それは事例が少ないんじゃないか。しっかり見て、検討したのか。……物事を見る目や判断力は、イドラと帰納法を意識することでも磨かれるでしょう。

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齋藤 孝

さいとう たかし

明治大学文学部教授。



1960年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業。同大学大学院教育学研究科博士を経て、現職。専門は教育学、身体論、コミュニケーション技法。



250万部を超えるヒットとなった『声に出して読みたい日本語』シリーズ(草思社)のほか、『雑談力が上がる話し方』(ダイヤモンド社)、『大人の精神力』、『10歳までに身につけたい「座る力」』(いずれも小社刊)など著書多数。


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