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来週の『真田丸』は忍城攻め!その前に知っておきたい兵糧&水攻めのリアル

戦国合戦の真実を『図解 戦国の城がいちばんよくわかる本』の著者であり、現在放送中の大河ドラマ『真田丸』の戦国軍事考証を担当する西股総生さんが解説します!

本当は避けたい長期戦

 攻める側からすると、力攻め(強襲)はたくさんの死傷者が出るから、戦力ダウンにつながりかねない。しかも、武家社会では、戦いでの死傷は主君のために体や命を捧げたことになるから、手柄として認められる。

 死傷者がたくさん出ると、主君としては家臣に褒美をたくさん与えなくてはならないし、戦死者の領地や財産を遺族に相続させる事務手続きも必要になる。これはリスクだ。

 では、力攻めを避け、城を遠巻きに囲んで長期戦(=攻囲戦)に持ちこめば、リスクを抑えられるかというと、ことはそう単純ではない。

 まず、長期の攻囲戦をつづけるということは、大人数を敵の城のまわりに張りつけておく、ということだ。この軍勢は当然、他の任務には使えない。つまり、他のいろいろな作戦ができなくなってしまう。これは、軍勢を動かして戦争をする側から見れば、死傷者続出で戦力がダウンするのと変わらないことになる。

 いちばん問題になってくるのは、兵粮だ。攻囲戦というと、敵の城を兵粮攻めにする様子を思い浮かべる。でも、囲んでいる側は城側の何倍かの人数だから、兵粮もたくさん必要になる。

 兵粮の補給というと、本国から運んでくることをまず思いつく。でも、兵粮を運ぶ人足(陣夫)や、護衛の兵たちだって飯を食うから、遠くから運んでくる兵粮は目減りする。戦場の近くで商人から買い付ける、というやり方も使われたが、これには軍資金が必要だ。

 さらに、戦国時代には、手っ取り早く兵粮をゲットするために、そこらの村から略奪する、という野蛮なやり方も横行していた。ただ、大軍が長い間、同じ場所に居すわりつづけると、まわりの村も徹底的に略奪されるから、どのみちその一帯では食料が底をついてしまう。

 こんな具合だから、たくさんの兵粮を確保できるアテがないのに、うっかり長丁場の攻囲戦などはじめたら、どちらが兵粮攻めにあっているのか、わからなくなってしまう。

 ほかにも、長い間、陣を張りつづけていると、衛生状態が悪くなって病気がはやったり、将兵の士気が落ちたりする。こんな時に、調略など仕掛けられたら、大変だ。

 こんなふうに、長期戦には長期戦なりのリスクがともなう。だから、戦国時代の戦いでは、死傷者がある程度出ることは覚悟の上で、まずは勝負の早い力攻めを選ぶことが多かった。

 とはいえ、相手の城がいかにも難攻不落で、ちょっとやそっとの力攻めでは落とせそうもない場合や、力攻めを試みたけれども失敗してしまった場合などは、長期戦を覚悟しなくてはならない。

 まず、攻める側は、相手の逆襲をさけるために、敵城から下がった場所に陣を敷く。敵城が山城なら、谷をひとつへだてた山の上などに陣を置けばよいが、敵城が開けた場所にある平城の場合は、距離を大きめに取っておかないと、逆襲をまともにくらってしまう。

 戦場の全体が見渡せるような場所に本陣を置き、敵城や街道を見下ろせる場所などに、部隊ごとに陣を敷く。敵の逆襲を防ぐために、とりあえず陣のまわりを逆茂木や柵で囲んでおいてから、堀や土塁などをととのえてゆく。

 戦国時代後半の城攻めでは、陣と陣とを結ぶように柵や土塁をつくって、敵城をすっぽりと囲んでしまうこともあった。こうなると籠城側は、遠くにいる味方と連絡を取ったり、兵粮をこっそり運び入れたりできなくなる。城を囲む柵を二重にしておくと、内側の柵で逆襲を防ぎ、外側の柵で兵粮や密使が入りこむのを防ぐことができる。

 ただし、遠巻きに囲んでいるだけでは、城を落とすことはできない。そこで、それぞれの陣から敵城に向かう攻め口をつくってゆくことになる。

 もちろん、城側もだまって眺めてばかりはいないから、仕寄(しより)と呼ばれる弾よけを押し立てて、城に近づいてゆく。戦国時代の後半になると、木の楯では鉄砲に撃ちぬかれてしまうので、竹を束にしたもの(竹束)が使われるようになった。

 さらには、兵が身をかくすことのできる塹壕(ざんごう)を掘りながら、敵城に近づいてゆく戦法(専門用語で「対壕戦術」という)も登場した。この塹壕は、ジクザグに掘り進んでゆく。まっすぐ掘り進むと、正面から撃たれた時に、まとめてやられてしまうからだ。

 こうして、各部隊が充分に敵城に近づいて、突入態勢がととのったら、全軍で示し合わせて総攻撃をかける。ここから先は結局、力攻めと同じだ。

 堤などをつくって敵城のまわりを水びたしにする「水攻め」が行われることもあった。ただし、水攻めは地形の高低、川の流れ方などをよく考えてから行わないと、うまくいかない。

 また、水攻めは敵城を水没させる戦法と考えられがちだけれど、まわりを水びたしにすることによって、城兵が逆襲に打って出るのを防いだり、城と外部との連絡を断ったりするのが、もともとの目的だった。

 ほかにも、坑夫をつれてきて、城の下にトンネルを掘らせる「金掘り攻め」というのもあった。トンネルに爆薬を仕掛けて城を崩したり、水ノ手を掘り崩してしまったり、トンネルから攻撃隊を侵入させたりするのだ。この戦法は、領内に大きな金鉱を持っていた武田氏が得意としていた。

 

 

 

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西股 総生

にしまた ふさお

1961 年、北海道生まれ。学習院大学文学部史学科卒業。同大学院史学科専攻・博士課程前期課程卒業。目黒区教育委員会嘱託、三鷹市遺跡調査委員会、㈱武蔵文化財 研究所を経て現在フリー・ライター。城館史料学会、中世城郭研究会、日本考古学協会会員。著書に『戦国の軍隊』『「城取り」 の軍事学』『土の城指南』(以上、学研パブリッシング)、共著に『今日から歩ける! 超入門 山城へGO!』(学研バブリッシング)、『神奈川県中世城郭図鑑』(戎光祥出版)、他城郭・戦国関係の雑誌記事・論考、調査報告書など多数執筆。2016 年大河ドラマ『真田丸』では戦国軍事考証を務める。


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  • 2016.02.20